藤波の恋談義2
上司は他の同僚との会話にも「仕事が熟せないのにあんな喋り方をしてたら愛想つかされるぞ」と忠告してくれた。彼女も社内で俺をどう思っているか聞き込んで、こうすれば良いとアドバイスしてくれた。そこで初めて社会生活を円滑にするコツをこの二人に依って習得出来た。
その内に藤波くんはどうしているのだろうか、巧くやっているだろうか、と恋人どうしの二人が話す半分は彼の話題になり、これで気まずくなっても、ふたりの緩衝材になっているうちは良かった。
上司が今度社内に入って来た新人をどう教えればいいか、彼女と相談している内に此の二人が俺に対する意見の相違で、亀裂が生じて喧嘩した。この仲裁を買って出ると彼女は藤波に心を寄せ、心の痛手も求め始めた。これで上司への恋の重しが取れると、彼女は自然と藤波へと恋が烈しく舞い上がった。藤波も彼女の気持ちが分かると一気に二人は燃え上がった。
「こうなると同じ会社に居られずに、俺と彼女は一緒に辞めて同棲したってわけ」
「余りいいやり方じゃないわね」
「別にそうしょうと思ってやったわけじゃない。彼女のために頑張るほど自然の成り行きでこうなってしまった。でも災い転じて成就した恋は長くは続かなかった」
「どれぐらい続いたの?」
「一年半、ぐらいかなあ」
「じゃあどうして別れたの」
「結婚する前の旧姓は君嶋だった」
「エッ、彼女、今は結婚してるの。何かややこしそうね、どんな別れ方をしたん」
「聞き捨てならない、そんなもんじゃない。あいつは俺と別れてから下村と言う男と結婚したんだ。俺はけじめを付けるように金色夜叉にちなんで、まだ見ぬそいつを富山と言って今でも軽蔑してる」
「ダイヤモンドに目がくらんでと云う尾崎紅葉の一節か」
とうっかり可奈子も合わせてしまった。