事件の闇に挑む1
三木谷に託した下村へのメッセージは、週末に三木谷が直接、藤波に会って伝えに来た。
週末の午後に居酒屋にやって来た三木谷は、丁度三人が昼食を終えて寛いでいる時間だった。三木谷は特に真苗と短い受け答えをして、此処でなく近くの喫茶店に藤波を誘った。
可奈子の喫茶店は観光客が多い時間帯なので、人通りの少ない喫茶店を選んで入った。珈琲を注文すると三木谷は、真苗を小さい割にしっかりした受け答えをする女の子だと感心した。今日は珍しく真苗に関心を持って、いやな予感がした。
「あのメールに対する下村の返事ですが、電話でも良かったんですが所長が直接確かめろと言われました」
藤波のメールを受け取った三木谷と高嶋は、藤波があの事件に対してここまで踏み込んだ内容に疑問を抱き、先ずはそれを確かめに来た。
「下村の状況は意外と動揺なく、淡々とあのメールを見ていたのが気になりました」
やはりそうか。
「それで下村さんの身に何か変わった事でも起きたのですか?」
「いや、別に、いつもと違ってませんが、なんかスッキリされた印象を受けました」
「そうですか。それであの文章を見て下村さんは何て言ったんですか」
「早いうちに会って話がしたいと言ってました」
「それをわざわざ言いに来られたのですか」
三木谷の疑問はもっと複雑なはずだ。
「それだけならわざわざ来ませんよ」
三木谷の疑問は、下村は真苗を追い詰めながら、どうしてあの子だけ、あの事件現場の家から逃れられた。犯行時、真苗ちゃんは二階に居て、下村は一階にいる妻を包丁で刺した。次に下村は心の葛藤はともかく、何の戸惑いもなく、二人の子供に向けられた。