下村との面会5
「そんなに難しいのですか」
照れくさいのか彼は頭を掻いた。そこがまだ学生っぽい。
「論文や対面形式でマークシート形式じゃないからね」
それより高嶋さんは、他に多くの揉め事を抱えて、当分は彼が藤波の相手をする。 三木谷は下村との接見を聴取するため近くの喫茶店へ誘った。弁護士でない彼は加害者との接見には制限がある。此の前のように何回かは高嶋の代わりとして顔繋ぎで接見した。
「矢張りわたしや所長では、下村さんはなかなか胸を割ってまでは話にくいようです」
事件の大まかなものは全て把握したが、肝心の動機に付いて暗礁に乗り上げてお手上げ状態になっていた。
「そこで所長はあなたに賭けてるんですよ。それで今日の面会はどうでした」
喋る雰囲気は高嶋と同じだが、此の人にはまだ気さくさがなかった。それに近い親しさは感じられたが、時によっては相手を呑み込むだけの気迫がない。無理も無い、今年卒業したばかりで、学生気分が抜けきらない所も見受けられた。企業の営業には向かないし、まして法学部卒では製造現場は更に無理だ。矢張り人の痛みを十分に受け止めようとするタイプだ。ひょっとして似たような者だと見越して、高嶋は三木谷に振り替えたのかも知れない。
「先ずは下村と深詠子の関係から問い詰めようとしたのですが。全てを許し合える二人でない以上は、第三者には絶対触れられたくない部分が有るようで、それでまだ語ってくれなくて、解明できないんです」
愛し合って結ばれた者どうしでない二人には、感情の行き違いはあっても、大袈裟にならなければ取るに足らないと見過ごす。ほとんどの恋が片思いの三木谷には此の意味が理解できない。まあ、藤波もそうだが、彼は本当の恋を深詠子で一度だけ経験した。おそらく深詠子もそうなんだと真苗から知らされた。
「なあなあで済ませられない部分が多いって事ですよ」