下村との面会3
「深詠子と一緒になるまではバリケードみたいに、磨美さんには毛嫌いされました。それが結婚するとえらくハメを外されて、藤波さんの事は妻より良く喋ってくれて、後で聞くと最近まで余り会ったことがないと高嶋さんから聞かされて吃驚しました」
「ぼくも話はよく聞かされたが、亡くなる前は一度ぐらいしか磨美さんには会ってないのに、僕の事を良く知っていて、下村さん同様に驚かされました」
そこで磨美さんから藤波を深詠子はどれほど愛していたか聞かされた。下村の根底には深詠子と磨美から聞かされて、どうやら藤波と謂う男の人格が形成され、影のように脳裏の奥深いところに蓄積された。しかも藤波のお陰で深詠子との幸福が成り立っている実感を常に噛み締めて、仕事が益々順調に続いた。益々拡大した事業が失敗すると妻に延々と諭された。これが全ての根底を覆すようにあの事件に下村は突き進んだ。その細かい過程が此の裁判の焦点だと、高嶋が下村との面会で追求するが直前で躱された。
「それで、どうしてもその点について詳しく言ってもらえれば、遺された人たちも何処かで心穏やかに過ごせるでしょう」
もう直ぐお盆になる。快く彼女を見送りたい。
「高嶋さんの話だと、丹後の実家には美澄と孝史の遺骨を持って行き、深詠子はあなたのところにあるんですね」
「ええ、お兄さんも実家のご両親も納得されて、わたしの家で供養しています」
申し訳ないと下村は深々と頭を下げた。
下村にはそんな話より、存在した深詠子の過去に生きていた。これからも想い出を大事にしたいが、この手で殺った苦しみから逃れ、対等に想い出に浸るには、あの世の深詠子に先ずは許しを請う。そのために藤波に告白して気持ちの整理をしたいようだ。