高嶋弁護士12
独り軽トラを走らせながら出た結論は、もっと下村との面会が必要だった。店に帰り着くと、可奈子は真苗に包丁を持たせて野菜をみじん切りにさせて、今日の骨切りした鱧を湯通ししている。
「弁護士さんとのお話、如何なの、難しい話だったの」
藤波の冴えない顔色を見てそう悟ったようだ。真苗は届きにくいまな板にビールのケース箱を反対にして、それを踏み台にして野菜の下ごしらえをしていた。
「上手いもんだなあ」
「あたしも鱧の骨切りには驚いたけど、丁度真苗ちゃんが骨切りした部分の湯通しが出来たけど試食してみる」
と小皿に箸を添えてカウンターに置いた。見た目は良く切れているが、これだけは食べてみないと判らない。どれどれと一口食べてみた。
「どう?」
「悪くないなあ、これなら常連客には俺がやったように見えるが、問題はあの年季の入った長老の酒巻の御大将だ。あの人がええ歯応えやと言うてくれればええんやがなあ」
「でも啓ちゃんが手を付けたもんを、お客さんに出すわけにはいかないわね」
「そうだなあ。仲買のおやっさんが骨切りした物だけ今日は出すか」
時間が掛かりすぎたが、それでも今日の真苗の出来栄えを十分に褒めて、元気をつけさせて二階へ上がらせた。
真苗が居なくなると可奈子に弁護士との話を一通り説明した。
「あの弁護士は俺を煽てて、加害者の利益になることばかり勧めるんだ」
健全な精神に、動機なき殺人なんてあるわけないが起きてしまった。
「それでどうすんの?」
「どうもこうもない。ただひとつの真実を知りたいだけだ」
憎しみ、金、出世、名誉、世間体、殺人には様々に、当人に取ってはもっともな動機が存在するが、心中事件の動機って何なのだ。