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高嶋弁護士10

 高嶋弁護士は藤波に対して何を望んでいたのか。最後に彼は人間って面倒な生きものだと言った。みんな穏やかに暮らしたいと望みながら冒険心が目覚めてくる。働かなくっちゃ。もっとよい話し相手を見付けなくっちゃ。それでいて仕事が見つかれば何で働くんだ。良い相手が見つかれば何で此奴こいつと一緒に居なければならないんだ。下村はその両方に恵まれていた。仕事は運かも知れないが妻は違った。望んで一緒になれた。でも後で話を聞けば、どうやら藤波と謂う男のお陰だと解った。何処どこの誰だか知らないが、その男の置き土産の面倒さえ見れば、彼女は下村の願い通りに一緒に暮らしてくれた。下村には深詠子と出会った時に、藤波と謂う男が幸運を連れて来てくれた。藤波はかけがえのない人だと、深詠子を通じて刷り込まれた。深詠子との暮らしが順調に続くと、藤波の存在は彼女の生活の中に埋没した。それから八年後にあの事件を起こした。

「自分を見失った下村は妻も亡くした、しかも自らの手で」

「一人で死のうなんて、思わなかったのですか」

「無理だろうなあ」

 今まで色んな事件を見てきたが、あれほど順調な男はいなかった。みんな多かれ少なかれ挫折感を味わって来た連中ばかりだ。それだけにあの男は先行き不透明になれば自分の行き場を完全に見失う。

「それでも、どうして深詠子に相談しなかったんですか」

「それも聞いてみたが、気高けだかすぎて話せなかったそうだ」

 深詠子は冗談も言うし、人を茶化しても此処一番の肝心なときには気高かく振る舞った。それが藤波には安心感と世間に対して奮い立たせるものを感じさせてくれた。それが下村には通じないどころか逆効果になってる。

「究極の時に見せる深詠子の気高さには、降り注がれた愛情の裏付けがあってこそ勇気が湧く、でも下村にはそれがないでしょう」

「なるほど、そんな時に不安がって、どうしょうと一緒になって騒いでしまえば、益々落ち込む。私は深詠子さんを知りませんが、多分普段は鷹揚に構えていても、いざとなればでんとしかも気品高く構える風格の持ち主だったんでしょう。そんな妻を見てオロオロする下村には扱えない存在に見えたんでしょう」




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