高嶋弁護士8
「そう言われても深詠子の人柄は、ひと言で済むような人じゃないですよ」
「深詠子さんと住んでいたのは二年も一緒じゃなかったんですね。それでも解らないほど奥深い人なんですか」
「そうですが、それと共に喜怒哀楽の烈しい人ですから、前に付きあっていた人も持て余していました」
「厄介な人だったんですか」
「いやその反対で、男なら誰でも深詠子に気に入られたいと言い寄ってました。それで魅力があり過ぎて、彼女の烈しさに振り回されても、別れきれずに持て余しているんです。それだけに下村が注ぎ込んだ魂は、深詠子と共に消えてしまって、今のあいつは抜け殻にすぎないんです」
「それに新たな魂を吹き込むのが藤波さん、あなたの深詠子さんへの罪滅ぼし、ご奉公になる」
「罪滅ぼし?」
「聞けば藤波さんは、此の八年は深詠子さんへの恨み辛みで生きていたそうですね。それで婚期も逃したとか」
「何故そこまで知っているんです」
「仕事柄事件に関する人物は一応調査しますので、あなたも調べました」
「別に埃の出る身体じゃないけど、不愉快だなあ」
「それでも今まで得た感触では、下村に対しては敵意は持ってないようですね」
藤波には敵意も何も、深詠子がどんな風だったか、今、知ったばかりで、それどころではない。ましてその相手の下村に至っては全く知らない相手だ。しかも最近は留置場で面会しただけだ。そこから敵意どころか哀れみさえ感じるのは何だろう。理由は宿した藤波の子供のために彼女は下村と一緒になってくれた。言い換えれば藤波の存在がなければ下村は深詠子には見向きもされなかった。つまり下村は真苗の育ての親でもあるんだ。
「それどころか調べれば調べるほど、下村に対しては複雑な感情をお持ちなんでしょう。なんせあの毅然とした態度の何処から、失礼、下村と一緒になったのもあなたへの愛を貫く為なんて、世の中には変わった愛の表現方法もあるもんですね」