高嶋弁護士6
事件の質問になると急に頭を抱えてしまって、話にならずに中断を余儀なくされて取り調べの刑事も弱り果ている。
本人は深詠子に許しを請おうと深刻に願う余り、思い込めば思い込むほど精神が異常に乱れる。このままだと安静を保つために入院の措置も考えないと、それで安定して取り調べる方法を探っている。しかし藤波さんが面会に来てから、かなり精神が安定してきていると聞いて、一度あなたに会ってみる気になった。
「藤波さんは下村と面会しましたが、その時に事件について訊いてましたね」
「どうして知ってるんです」
「面会に立ち会った署の者がすべて聞き取っています。その情報教えてもらって、弁護士さんからあなたに話して欲しいと頼まれたんですよ。警察も出来るだけ下村への刺激を避けているんです」
警察は事件当時は心神喪失状態だと判断されるのを恐れている。
「あなたは下村が事件を起こさなければ会うこともなく、真苗と謂う子供の存在も知らずにいられた。それを報せたのは深詠子さんです。厳密には娘さんの真苗ちゃんですが、何故、彼女はそうしたのか、そうしなければならないのか、それを考えましたか」
「今まで憎んでると思っていたからでしょう」
「でも彼女に対して何の感情も持たなければ、愛も憎しみも湧かなかったはず。それは深詠子さんも同じでしょう」
預かった期間は短いが今までの真苗を見れば、深詠子の想いは一目瞭然だ。つまり此の八年間、下村夫婦の間には触れてはならない何かがあった、そこを高嶋は聞きたいのだ。それは藤波も知りたい。
此処で高嶋は下村との面会時間が迫った。藤波との話を聞いて中断できないと事務所に電話した。