可奈子9
仲買店の一店舗分の商品なら、普通の四トントラック一台分にも満たないが、中央市場の外には、数え切れない商品の入った段ポール箱を山積みした小型の運搬車や人力車が引っきりなしに右往左往している。
「そうだなあ、俺たちが行った鮮魚売り場はトロ箱で買わないから全部店に置いてもしれてるが、野菜や果物は段ボール箱で何箱と買うから、とても全部店に置けない。店に置いているのは今日入荷した一部の商品だ。残りは別の所にある。それと同じ品物を積んで客のトラックまで配達してるんだ」
仲買店が仕入れた食品が入った大量の段ボール箱をそれぞれの小売業者が買い入れる。つまり仲買店の市場から駐車場内で待期する市内の全小売店へ大量の商品が移動する。しかも開店時間前に帰って店へ並べないといけない。短時間に大量の食品が此の狭い中央市場と駐車場を往来すれば、われ先にと大混乱になる。
「じゃあ中央市場内の店に居る人や買いに来る小売店の人は値踏みだけで、実際その商品を配達する人は大変な労力を要するのね」
「まあね。でも短時間の配送だけで、みんな昼過ぎには仕事が終わり、パッと働いてパッと遊べるのが魅力で働いてる」
さあ今日の仕込みは終わったし帰るか、と駐車場へ引き返すと可奈子は笑い出した。
「どうした」
「だって肝心なものを忘れてない」
と言ったきり指摘しない可奈子に、藤波は苛ついた。
「深詠子さんって言った人。もっと詳しく知りたい、話してよ」
そうでなければ教えないと言われて、帰りの車で話す約束をさせられた。
彼女は笑い転げるように、金目鯛はどうするのと突かれてしまった。彼は慌てて引き返して、今から配達では遅くなり、金目鯛は自分で車まで持ち帰った。夏は荷台に置いた鮮魚の上から氷と分厚い幌を敷いた。
車が市場を離れると、さっきの約束の実行を迫った。しょうがねぇなあ、とポツリポツリ喋り出した。




