高嶋弁護士2
歳だからとあっさりしている物を揃えるだけじゃない。
「ハモもこの時期は喜ばれる」
「この時期ならウナギじゃないの」
「あの連中は鱧の方が口に合うんだ」
「そうなの、啓ちゃん骨切りできるの?」
「出来る」
「真苗にも出来るぅ?」
オイオイ、好奇心旺盛なのか少しでも役に立って貰う一心なのかと笑った。この子はこの子なりに必死で頑張ってる。それってもしかして下村が事業に失敗しなくても、いずれ早いうちにこの子を連れて別れるつもりだったのか。そうと思えるほどこの子は何事にも自立心が芽生えやすかった。
「よっしゃ、鱧の骨切りをやってる店があるがどんなもんか見るか」
「ウン、見てみたい」
藤波は勝手知ったる鱧を扱う店に行った。鮮魚売り場が並ぶ一角に大きな桶が並ぶ店に足を運んだ。店の桶には数匹の生魚の鱧が桶の縁にへばりつくように鎮座している。これが鱧? と珍しそうに真苗が眺めた。
「オッ、今日は珍しい。しかも初めて奥さんと子供連れですか」
可奈子は少し照れながら挨拶した。真苗は桶の鱧に首ったけだ。
「お嬢ちゃんは鱧が気に入ったんですか」
「それより骨切りをやりたいと言い出して来たんだが、今日はそんな注文がなければこっちで頼むからやってくれ」
お安いご用と桶の鱧を一匹取り出し、そのまままな板に固定して腹引きにさばいて骨切りが始まると真苗は真剣にじっと見詰めた。
「どうだ出来そうか」
黙っていると残りの少しの部分を、店の人と代わらせた。最初はスローテンポだが次第に早く力強くなった。それでも大人に比べると遥かに遅いが正確に切り込んでいる。第一にあのザクザクと小気味よい音がして骨が切れてる。
店主に出来映えを訊くと、音は申し分ないが、これだけは食べたときの歯応えだ。なるほどそれを楽しみに持って帰った。昼頃にはほとんどの小売店は、開店時間だけに流石に朝の喧騒は鳴りを潜めて楽に車に戻れた。