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真苗の意欲1

 翌朝、目が覚めると二人とも下のカウンター席で朝食を済ませて、可奈子は真苗と本を読んでいた。先日二人は一緒に買い物に出た帰りに、真苗ちゃんが本屋さんに行きたいと誘われた。子供向けの児童文学の本でも読みたいのだろうと大手スーパーの書籍売り場に行った。

「何読みたいの」と訊ねても黙っているから「ごんぎつね」って云う本は知ってる? と聞くと五歳の時に読んだと聞かされてへえーと驚いた。お母さんの深詠子さんがそう謂う童話集を幼稚園の前から読ませていたと知った。美澄と孝史が生まれると深詠子は一人でも楽しめるようにその手の童話集を与えていた。小学校に行く頃には真苗はたいていの童話集は読み終えて、児童文学を読ませる深詠子さんの育て方に偉く感心した。真苗が書店で買い求めたのは何と此の前、深詠子が藤波を実家へ連れて行って聞かされた「草枕」だった

「真苗ちゃん、これ読むの?」

「ウン」と頷くから買ってあげた。あたしも知らないからと同じ文庫本を買ってこの日も一緒に読んでいた。

 昨日は真苗はともかく可奈子は、一度下に来たものの長老を中心にして賑やかに議論を交わせていれば女の出番はない。逆にせっかく啓ちゃんが知ろうとした心中事件の動機があやふやになれば困ると階段の途中から引き返した。お陰でぐっすり眠れて朝は真苗ちゃんと一階の店の調理場でいつものように朝食を作って済ませた。藤波が起きて朝食を摂ったのは十時近かった。

 朝食を終えると可奈子と二人で珈琲を飲んだ。流石に立花喫茶店の娘だけあって淹れた方が上手い。真苗は端の席で本を読んでいる。

「何読んでるんだ?」

 エヘヘと笑って何でしょうと可奈子に言われた。

「小学校の低学年で読む本か?」

 見当も付かずに可奈子を問い詰めて、夏目漱石の「草枕」と聞いてぶったまげた。藤波でも読んだのは深詠子と別れてからだ。真苗なみに、お母さんの胸の内に迫ろうとしていると、胸がジーンとして来る。良く見ればカウンターの隅に同じ文庫本があった。


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