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酒巻の人生訓2

「酒巻はん、今更そんなんぼやいても、これが今の世の中でっせ」

「そやさかいや。こないだの一家心中のニュースはなんや、無職になれば子供の面倒よう見られんさかい、今は子供を預ける施設があるやろう。まったく世間を見る目が狭いやっちゃ」

「あの事件はバリバリ働くやり手なだけに、そんな世間の裏側を見る余裕のない人でっしゃろ」

 源さんは箸で煮物を突きながら喋るから、何処まで気持ちが乗ってるか分かりにくい。

「子供を預かる養護施設が世間の裏側やて言うのかッ」

 矢張り年金の足らん山崎のじいさんに突っ込まれた。

「そうでなく、社会の先頭切ってバリバリ働くやり手の人から見たらそうなる。少ない給料だけでやりくりしていたわしらが失業したときには子供の面倒見てくれる。わしらにすれば有り難い存在で、世間の裏側なんてとんでもない。堂々とした前途を悲観せんでもええ立派な福祉施設や」

「そうや、あのニュースの家を見たら、そこまでして世間の世話は受けたくないちゅうプライドがある。そやさかい自分の家族は自分の手で道連れにしょうとなったんやろう」

 やっさんが少し弁護した。

「別に家族を養えなくなれば預ける施設はある。そこまで頭が回らんのは社会の最先端で働いていると謂う自負があるさかいや。まあ誇りを持つのもええが、それに溺れて救いの手まで払い除ける。そんな負けん気は学校で頑張れ。社会ではそんなもん捨てて福祉にすがればええのや」

 戦中戦後を生き抜いた酒巻だけに説得力がある。

「そやけど、あんなええ家に住んでる人が施設の世話になる。そんなみっともない事はしたくない。ようするに世間に晒されたくないんや」

 やっと郊外の家のローンが終わったやっさんがしみじみと言い聞かせた。

「しかし命と引き替えられる物でもないやろう。命あってのものだね。やり直せば良い。復活して世間を見返せば良い。まあそう言う気概のある人は一家を道連れにせんわなあ」

 戦中を乗り切った酒巻は、戦後復興の立役者ではないが、資本主義の底辺を支えた自負があった。

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