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可奈子8

「漢字だけ見ればなんか複雑な名前の付け方ね」

「それを言っちゃえば、みんなそうだ。そう簡単に名前を付ける親はいない。もうすぐ市場に着くが、車で待つかそれとも一緒に見て回るか」

「レクサスなら良いけど、この車では待てないッ」

「そうだなあ、じゃあ一緒に買い出しに行くか」

 車は中央卸売市場のごったがやす駐車場に着いた。この街の胃袋を預かっているだけに凄い人混みだ。通りを埋め尽くしているのは、小売業者が買った品物を指定した駐車場まで運ぶモートラ(小型運搬車)や丁稚車が所狭しと行き交っている。

なんなのこんな狭い道に、お祭り騒ぎな人出は」

「そんな祭り気分な者は一人もいない。みんな一刻も早く注文を受けたものを配達するのに必死なんだ」

 野菜や果物を一杯積んだモートラの荷台の前には、エンジンと一人掛けの丸椅子があり、エンジンはドラム缶を横半分にしたようなエンジンカバーに覆われ、上に取り付けられた円形のパイプがハンドル代わりになって、隙間を縫うように走る。荷物を一杯積んだ丁稚車が更に所狭しと行き交っている。今は移転したが、以前にテレビで見た東京の築地市場そのままだ。

「見れば分かるだろう。買った品物は店の者が車まで配達してくれるから駐車場の番号、もしくは目印になるものを駐める時に見付けて憶えておかないと、あとで買った商品が届かずに困るんだ」

 藤波は人混みをかき分けて市場に入った。後に続く可奈子は周囲をキョロキョロしながら、はぐれないようにしっかり彼の肩を掴んで続いた。市場の中は八畳ぐらいの広さの店が区画された場内に並び、しかも所狭しと品物がはみ出した店ばかりだ。藤波は鮮魚売り場に直行して、次々と注文して代金を払うと他の店を物色する。

「店はあんなに狭いのに、外の通りには荷物を配達する人と車で溢れている。いったいどこに品物があるの」


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