表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/147

居酒屋「どん底」1

 考えがまとまらないまま開店時間になった。いつも通り親の代から書かれた屋号の「どん底」の暖簾を持って表に掛けて、店に入る前に源さんがやって来た。さっきまで立花の喫茶店に居て、娘の様子を聞かれ「そんなに気になるんやったらおやっさんが行ったらどうや」と言って代わりに様子を見に来たようだ。

「噂では、可奈ちゃんは余り店には出へんさかい、立花のおやっさんがえらい心配してなあ」

「可奈子の話ではまだ照れくさいようです」

 さよか、と源さんは勝手知ったる馴染みの店に、ずかずと入る。そうなると後に腰を屈めて続く藤波では、どっちが店のあるじか見分けにくい。

 椅子と壁のお品書きが紙からホワイトボードに変わった。もっと変わったのは出て来るメニューだ。今までは簡単な揚げ物とか焼き物が中心が、煮ものに南蛮漬けが加わった。

 早速カウンターの肘掛け椅子に座る。

「やっぱし慣れは恐ろしいなあ。先代から何十年と親しんだあのガード下の靴磨きの丸椅子が、こうして座り出すと此の居酒屋には場違いな椅子も様になって来た」

 それも出し物のメニューが変わった所為せいと云われた。いつもの直ぐに食べられる枝豆でビールを呑みだした。

「なんや、可奈ちゃんは初日だけで今日も出ずじまいか、それに真苗ちゃんもか。あの八十の長老があの子のお陰でとうは若返った云うてんのに、残念がるでぃ」

 ここへ来る常連客はほとんどが還暦過ぎの六十代だ。そこからあの長老は一回り上らしいが歳は分からない。

「あの人はほんまに八十ですか?」

「そやなあ、幾つに見える。いつも来る連中もハッキリした歳は知らん。わしらは戦後派やけどあのじいさんだけは戦中の話を知ってて、みんなそう思ってる。そやさかい、知らんのはわしらだけで、あのじいさん他に此の近辺のこともよう知ってる。亡くなったあんたのお父さんのことも詳しいで」

 鰯にモロコにワカサギ、ニシン、ホッケなど、ほとんど簡単に焼くか天ぷらのどっちかが、可奈子が来てから酢醤油に漬け込んだり、煮出して出すようになった。よその店へ行った者まで此処に来だした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ