真苗の心境2
「そうか、それでいつもどんな話をするんだ」
「そうね、案外ませたとこもあるのよ」
「ホ〜ウ、たとえば」
「啓ちゃんと深詠子さんとの事は薄ぼんやりとしか頭の中には今はないけど、そこを色々と訊かれても、あたしも知らなくて困ってるのよ。それで此の前に話してくれた深詠子さんの実家での話をしたの」
「あの話ならあの子も聞いていただろう」
「あたしはまだ啓ちゃんと深詠子さんの詳しい話は出来る状態じゃないでしょう。特に子供の扱いに慣れない啓ちゃんはまるで異星人みたいに扱うから、真苗ちゃんもどう突っ込んで良いか迷ってるわよ」
「それでもあの子は突拍子もない事も喋るから面白みがある、もっともそれも深詠子の躾の一環かも知れないが」
「そこは少し大人びて頼もしいわよ」
「それでお母さんの実家の話をして真苗はどうだった」
「彼女の実家に近いと云うだけで初めて行った啓ちゃんを案内したのが藩主細川家のお墓と草枕の舞台を深詠子さんは案内したけれど、その説明をせがまれてもあたしに解るわけないから困ったわよ」
「彼女が別れるなんて思ってもいないから、その時はそれほど印象に残らなかったが彼女への思いを知る努力の一環として、初めて彼女の実家に帰郷した時の印象をそれからじっくりと思い浮かべて追求した」
「それで答えが出たの?」
「出ても、だからそれがどうなんだと、今も心中で燻っている。ひょっとして下村に嫁いだのもその辺に何か隠された真実が有るのか。でもそれを受け容れる要素がなければ、そんな男に頼らず、深詠子もじっくりと育てれば良いのに、子供が出来てどうして俺から別れた。戻ればいいだろう」
「別れてから判っても、深詠子さんには意地がある。あたしが、もし、三つも年下の男の子がそんな風に呑気に構えられると苛つくけど。美深子さんはそれ以上に堪えきれなかった。磨美さんを見ているとそんな気がする」
そうかと、現実を直視できない藤波は思いあぐねた。