真苗の心境1
ごく自然に可奈子が包丁の扱い方を実践すると、そんな持ち方じゃなかったそうだ。
「そうなんか ?」
と説明を求めた。
それで真苗に実際に包丁を握らせた。そのまま突き刺せば、包丁は刃のない方は切れなくて下向きに浅くなる。だから今の持ち方はまな板に載せた物を切るときに使うものだと教えて、人に向けてはいけないと云って聞かせた。
「お父ちゃんはそれで下に下ろしたのぉ?」
「そう、真苗ちゃんを見て躊躇う何かが働いたのね」
「どうしてぇ?」
「さあ、それはこれから明らかになると思う」
ふ〜ん、とまな板に置かれた野菜を眺めてる。
「さあ、手伝ってくれるんじゃなかったの」
ウンと頷いて黙々と野菜を切り始めた。と経緯を説明した。
「此の時、真苗は何を思ったのかしら?」
「それでよく包丁を持たせたね」
「ジャガイモの時は持ち方が違った。今度はしっかりと包丁の柄を握らしただけで、そこまで考えるとは思わなかった」
あの時は、お父さんから一緒に死んでくれと言われて、断った話を聞いたが包丁をどう持っていたかは聞いてない。八歳の子がそこまで考えるものなのか。でも包丁でお父さんの話に結びつけるなんて、そこまで考える子も珍しい。
「気にしないのでなく、気にならないんじゃないか。何せあの子の母親はその方面では肝が据わっていてビクともしない」
「その話は聞いたけど。まるで鉄火場の姉御じゃないけど、そんな人が下村に幾ら妊娠した啓ちゃんのためとは謂え、割り切れるのかしら」
「そうだなあ」
「ここのところ店も真苗も任せっきりだが、馴染み客ばかりの店の方はともかく、初めてやって来たあの子と可奈子は上手く疎通が図られるのか」
「あの子は一生懸命に此の家に取り入れられるように、小さい子供ながら気を使っているのが実にいじらしいくて、母を亡くしたばかりで不憫にも受け取れるわよ」