下村談義6
「そうね、まさかと思うがどう考えてるのかしら、あの子」
口数も少なく何でも頷く真苗が、突然見せる奇妙な主張に何か隠された真実が有りそうだと可奈子も言い出した。
「ねえ、あたし思うんだけど。あの子をお父さんに会わせてみればどうかしら」
怖がる気はしないがどんな反応するか。普通の子供とは違った対応をすると可奈子は思った。
「啓ちゃんはどう思うの?」
「ウ〜ン、そうだなあ。それより最後に残った真苗を探して二階の部屋に向かったが、階段前の踊り場で真苗を見付けたが突き飛ばされたそうだ。果たして八歳の子供に突き落とされるか。もしそうなら余程に油断していたか、冷静さを欠けていたかどっちだと思う ?」
「両方、だと思う」
一家心中を図る男が私物化した家族を養う甲斐性が尽きたと悟って起こすとすれば。真苗ちゃんは下村にすれば他人だけに迷いが生じた。そこを予期せぬうちに真苗に突き飛ばされた。此の時の真苗ちゃんにすれば母が瀕死の目に遭わせた父親は許せない。
「それで突き落としたのか」
「どうも体ごと打つかったって言ったの」
「それは以前にも聞いたが……」
「あたしも聞いた」
藤波はそれ以上は訊いていない。
「ハア? まさか。お前、あの子に事件について、また聞いたのかッ」
あたしも、あの子にとっても、余りにもショックすぎて訊けるわけがない。
「訊くと云うより」
真苗ちゃんがあたしも手伝いたいから教えてと言われた。包丁を持たせば様になって、深詠子さんから簡単なリンゴやジャガイモの皮むきとか教わっていた。今度はまな板に載せてブツ切りにさせると「あの時はお父ちゃんは逆さかに持ってた」と言った。どうやら包丁の刃を上向けにしていた。包丁のような幅の広いものはそうすれば深く真っ直ぐ刺さる。でも料理にはそんな必要ないから、こうして刃を下向きにしてと説明した。それで真苗はあの時のことを思いだした。