下村談義4
磨美さんの家を出る頃には気分も安定してバス停まで歩く事にした。出町柳駅まで乗って、そこから京阪電車で店の支度に間に合うように帰った。
スッカリ居着いた可奈子は常連客に受けが良く、店どころか真苗ちゃんまで任せっきりだ。真苗が店に居るのは開店から一時間ちょっとで、遅くても夜の七時には二階へ上げている。この頃には真苗の下準備だった枝豆を卒業して瓶ビールのケースを逆さにしてその上に上がり、もう別な付け出しの盛り付けに掛かっていた。これも可奈子が教えると酢の和え物や漬け物を綺麗にピラミッド型に小皿に盛り付ける。これがお客が席に着くと直ぐに出せるように開店前にはズラッとカウンターの内側に並ぶ。
「真苗ちゃん、上手いもんだなあ」
「ウン、可奈子姉さんに教えて貰ったぁ」
よくもまあ、短時間でここまで教え込むとは、子供の扱いに慣れない藤波には可奈子はたいしたもんだ。それとも憶えが良いのは深詠子の躾けが行き届いてる所為か。
「遊びたい年頃なのに、良くやってくれるのよ」
ねェ、と頭を撫でられても、真苗の手は休みなく動いている。
「それで、どやったの下村は」
真苗は藤波がお父ちゃんに会いに行ってるのは、可奈子から聞いて知っている。それでも大人の会話には聞かれない限り黙っていた。
「うん、だいぶ落ち着いてるが、弁護士の質問にはまだ考え込むことがあるようだ」
「考え込むって?」
「事実はどうであれ、刑を軽くするために奔走する弁護士とは別に、彼は罪の重さに向かい合ってるんだ」
「検察からの追及が厳しくなるとそんな事言ってられないみたいなのに……。それで啓ちゃんが、一家を道連れにした動機に迫れるのも、起訴されるまでかも知れないわね」
「お父ちゃん、苦しんでるのぉ?」
手を止めて切なそうな真苗の声に、思わず二人は視線を落とすと、真苗は交互に二人を見上げていた。