7可奈子
いつまでも父の遺した物に縋ってないで、真面目にやらないとその内に食いっぱぐれると言われてしまった。別にこれで生計を立てようと藤波は思わないが、ハッキリ言われると焦る。待てよ、これがこの出戻り女の狙い目か、としっかりハンドルを持ち直した。ならば感受性の高い彼女が何処まで研ぎ澄まされたか試してみるか。
「君の神経は一般社会では合わないようだが、僕には合いそうだなあ」
「実に回りくどい言い方ね、それで前の彼女に振られたの」
アッサリ躱された。しかも俺の神経に逆なでする処は変わってない。子供の頃から見知ってる彼女の思考の過程は掴めても、感情の起伏が烈し過ぎて、極めて過小評価せざるを得ない。
「ねえ、前の彼女のこと、少し聞いていい?」
「何だ一体、聞いてどうするんだ。前の彼に復縁を迫る口実でも探るつもりか」
「あの男にはもう気疲れしてダメ」
「お前でも気疲れする相手がいたんか」
軽トラは大きな道を避けて離合しにくい道ばかり走っている。この男の頭の中みたいに実に回りくどい道を走り続けている。
「話が段々逸れていくんだけど、そう云う作戦なの。ならハッキリ言いたくないのならそう言えばいいのに」
「いや、同じ境遇なら聞かせて、女心の複雑さを知りたい。性格でなく構造が同じ女の神経回路を知りたいんだ」
男女の神経回路に差はない、有るとすれば思考と感情の差だ。
「何処から話すか」
「もちろん切っ掛け、出会いじゃないん」
「俺が言いたいのは、なぜ彼女が去ったか、その一点を知りたくて喋る気になったんだ」
「そうなの、じゃあ先ず、その人の名前は何て云うん?」
「みえこ」
と言って深詠子の字を説明した。




