表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/147

父の店1

人生は掴みどころがない

 藤波啓一朗ふじなみけいいちろうの経営する居酒屋「どん底」は川端三条通を西に少し行った所にある。三条通から花見小路に抜ける途中に暖簾の掛かった間口一間ばかりで入り口は狭いが、奥行きのあるカウンター席だけの居酒屋だ。引き戸を開けると鰻の寝床のような八席のカウンター席の後ろに人一人が通れる通路がある。店は大きな通りに面し、駅に近く帰りに一杯やるには良い場所だ。父は此れ以外に近くに十台駐められる月締めガレージも遺していた。お陰で仕入れに使う軽四輪も駐めている。此のガレージも五年前に亡くなった親父おやじの所有する店と一緒に相続してお袋は六年前に亡くなってる。

 藤波は社会人として十年以上、自分を騙しながら会社勤めをしたが、性に合わないのが分かり、親父の調子も悪くなり、彼は実家に戻った。

 前から人に使われるのが気に入らず、何とかこれなら人から文句を言われず、適当に客あしらいをすればそこそこ一人でやっていけた。

 個性が強すぎて自我が激しく、それが表に出る藤波は社会生活では大きな欠点だった。親父が急に悪くなったのもあるが、亡くなる前の一年半ほどの特訓で、何とか食材を工夫して親父が出していたメニューの半分ぐらいは作れるようになった。後は出来合い物で何とか賄いながら、以前のメニューの復活に取り組んでいた。

 今日も先代からの常連に教えを請うて、段々おやっさんの味に近づいてきたと言われるようになった。しかしまだ大半は冷凍物を解凍して、市販の調味料を隠し味と偽って出していた。それでも手頃な料金が受けて客は残さず食べてくれて、親父が遺した人徳のありがたさが身にしみた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ