第96話 戦闘の備えの間の癒し
翌朝、翼とウロコを出現させ、身体を半龍化させる。
毎日やっているため、この変化にも慣れてきた。
この調子ならもう少し慣らしたら戦闘になった時も、素早く半龍化出来そう。
翼で飛んで安全飛行で、湖の反対側へ行く。
人型で飛ぶのはまだ慣れない。
落ち着いて着地する。
湖の反対側に来たその目的は、1つ。
育てている植物の状態確認。
地龍の王と戦う準備はしているけれど、植物の管理は欠かさない。
植物はすくすく育って、しっかり繁殖もしている。
魔法の効果が続いている証拠だ。
植物を見ていると、戦いの事ばかりで荒む心が和む。
……そうだ、まだ小さいけど数増えたし食べようかな
僕はポケットからナイフを取り出す。
商人から買っていた物だ。ナイフらしい切れ味があり切る作業の際に便利だ。
一番最初に育て始めた植物の1つを選んで、ナイフの刃を茎に押し当てる。
ほんの少しだけ力を込めて、茎を綺麗に切る。
成長しきっていない若い茎を選んだ。
成長している方は、引き続き繁殖して貰うために残しておく。
……葉っぱは苦いから茎だけだったよね
この植物は茎が食べられるから、茎を湖で軽く洗って土汚れやらを表面から落とす。
洗った後に、全体を確認する。虫食われは無さそう。
綺麗になったことを確認して、齧る。
「……うっ、うぇぇ、苦い……」
僕は思わず顔を歪める。
凄い苦い
この植物の葉っぱを、初めて食べた時と同じくらいの苦さを感じる。
何とか飲み込むけれど、味が口の中に残っている。
食感は変わらず、パリパリしていて良い。
「どうなってる? この植物は茎が食べられたはず……え? ちゃんと成長していないと苦いのかな」
苦味が強すぎて、とてもじゃないが食べられない。
この苦さでは、苦味のスパイスにも使えない。
成長の段階で、味が変化するのは初見の罠だ。
……若いと茎が苦いのか。なら収穫の時、見極めしっかりとしないとなぁ
残った分は植物を育ててる土に埋める。
苦すぎて食べれなかったから、せめて無駄にはせず土の栄養になるようにする。
他の植物も試してみる。
この手の話は、早い段階で気付くのは大事だ。収穫の時に気付いても遅い。
白い塩辛い果実以外を試した。
ナイフで優しく切って、水洗いをして齧る。
しっかりと味わい、違いを確認していく。
……これ結構、酸っぱいな。育ち切らないと甘くないのか。まぁ、食べられないレベルでは無いか
トマトのような赤い小さな果実は、成長しないと緑色に近く酸っぱい。
感覚は、本当にミニトマトのようだ。
次に豆系の2つを食べる
えんどう豆のような物は、しっかり外側を剥がして中の豆を齧る。
……豆系は小さいだけで味は変わらないな。うーん、少し硬いかも? こっちはあまり味は変わらない
茎と葉っぱが食べられる物も試し、大きな変化が無いと判断する。
違いをしっかりと記憶する。
一通り試し終えた後、最初の植物の葉っぱを試す。
若い物は、茎が苦くて食べられなかった。
成長した物は、葉っぱが苦くて食べられなかった。
「なら若い葉っぱならどうだろう」
恐る恐る口にして歯で葉っぱを潰す
葉っぱの内部からエキスが流れ出して、舌に触れて味を感じる。
苦いのを覚悟していたけれど、苦味は来ない。
……あれ、苦くない。それどころか
成長した茎と、同じような味がする。
食感も悪くなく、しっかり噛みごたえがあり美味しいと感じる。
「茎が苦くて葉っぱが……成長すると逆になる。成長によって成分が移動する? 何か必要な進化なのかな」
成長によって、苦味成分が茎から葉っぱに移動する。
何か必要な進化の過程で、そうなったのだろうか。
これなら成長した茎、若葉、それぞれを別用途で使えそうだ。
葉っぱと茎を使った野菜炒めも合いそう。
「特訓の時間、お腹減ってた?」
「味の確認してた。新しい発見をした」
「ほう、理解度が上がるのは良い事だ」
「成長するのが楽しみ、さて、今日はどっちから?」
「今の段階で能力強化の練度を上げる。その後、魔力操作の練度上げ」
「了解」
小屋の方に戻って、今日の特訓を始める。