第95話 勝ち筋と特訓
「今の僕に勝ち目があるの?」
地龍の王を倒す、確かにそれを僕が出来れば戦争は止められる。
集団の長を倒すは1番先に考えつく。
だけど、それが出来たら苦労はしない。
考えつくけれど、一番難しいやり方なのだ。
それに相当強い龍相手に、若造の僕で勝ち目があるとは思えない。
「……無くはない。地龍の強みは大地を司る能力と龍の膨大な魔力、地龍の王は特に防御方面にその能力を伸ばしている」
「ほほう、大地を司る力と膨大な魔力……あっ、魔力は長生きだと増えるの?」
「どの種族でも一定の年齢までは増える。しかし、魔力量だけで言えば主と大差ない」
「どういう事?」
一定の年齢までとは言え、長生きしている地龍の王の魔力ならば、その限界上昇値に届いてる。
なのに、僕と大差がないというのは疑問が浮かぶ。
ただ魔力量に差がないのは、だいぶ良い情報だ。
「主の種族、蛇龍種は他の龍種より魔力に長けている」
「そうなんだ」
「それ故に魔力操作による身体強化、能力強化を軸とすることが多い」
「なるほど、魔力が多いから魔力操作か」
僕は今まで魔力を、魔法を使う為に使っていた。
魔力の使い方で身体強化、能力強化は考えてすらいなかった。
「身体能力は?」
「地を這う地龍は動きが鈍い。その代わりに龍種の中でも堅牢なウロコを持つ。質量の一撃は地を砕く」
「勝てるのは速度だけかな。ウロコが硬い上に防御方面に能力伸ばしてるって……突破出来るのそれ?」
「反理想郷であればウロコを傷付けられる。大地の防壁も或いは」
反理想郷は、魔力の消費が大きい代わりに、高火力の砲弾を放てる魔法。
僕の現在の魔法の中でも、高火力な部類。
ただあれには、明確な決定的弱点が存在している。
「でも……ネタが割れたら対応される。それに詠唱の時間が長い」
魔法の効果を引き上げる為に、長文詠唱にしている事で、発動には時間がかかる。
その上、反理想郷は複合魔法であり、もう1つの魔法、理想郷と一緒に発動しないと、真価を発揮出来ない。
弱点はまだある。
それは、あれが迎撃用の魔法である事。
理想郷の障壁もしくは、反理想郷の障壁が攻撃される事で発動が出来る。
つまり仕掛けに気づき、攻撃をしてこなければ長期戦になり、維持分の魔力を消費させられる。
強いが使いどころが難しい。
前回の魔族戦闘は、小さい魔族がひたすら突っ込んでくるタイプだったから効果があった。
地龍の王相手では、そうは行かないだろう。
多分、地龍の王は頭が回るタイプ。
「あれと同等かそれ以上の魔法を作れば良い」
「なら攻撃に特化した魔法か。思いつかないけど、そうだね。作るか」
……後、能力強化も出来るようになりたいな。うん? 能力強化……確か相手は大地を司る能力
「ねぇ、シク」
「どうした? 今の案はあくまで止めるための1例、ほぼ殺されに行くような物でしかない」
「地龍の王の能力について詳しく」
「やる気か?」
「予想があっていれば勝ち筋はある」
「ほう、ならば聞こう」
シクは僕の前に、椅子を持ってきて座る。
そして、興味津々に聞いてくる。
僕の予想があっていれば、勝てる可能性はある。
もっともそれは合っていれば、作戦通りに行けば、の話である。
その上で、勝率としては100戦のうち1戦届けば良いくらいの話。
それも初戦でのみ使える姑息な手段。
「確かに、勝ち筋はある。しかし、不可能に近い」
「不可能じゃないならそれに賭ける」
シクを質問攻めしながら作戦を練る。
そして、能力強化と新しい攻撃魔法の作成を行う。
地龍の王の堅牢なウロコと防壁を貫く想定の魔法、楽では無い。
時間をかけて確実に製作していく。
そして、魔力による能力強化を重点的に鍛える。
魔法以外での魔力操作なんて、殆どした事がなかったから、調整が難しい。
「乱れてる。それでは込められない。暴発する」
シク先生のスパルタ特訓を、受けながら鍛えていく。
「魔力を通すやり方は、こうやった方が展開が早い」
シクは、凄いしっかりと教えてくれる。偶に見本を見せてくれる。
どこがダメか、どう直すべきかを、上手く言語化して伝えてくる。
魔法の時も思ったけれど、教えるのが上手い。
知識といい魔法だけでなく、能力強化のやり方も知ってるとか、本当にシクって何者なんだろうか。
聞いても
「本来は認識出来ない存在、そこらにある存在の異形化した姿」
「侵食、それが私」
とよく分からない返ししかされない。
いや、シクなりに答えているのだろうと思う。
ただそうなんだとは、行かない説明なのだ。
結構この世界だと、普通のことなのだろうか。
そういった物とは、無縁の異世界人だから上手く理解出来ないだけなのか。
聞けば聞くほどに謎が深まる。
「早く鍛えねば間に合わない」
「た、確かに能力強化の特訓する」
強化の特訓を再開する。