第94話 止める手段
正直、あの状態から、戦争は無しとは思えない。
だから起きると想定して止める方法を知りたい。
「主のせいでは無い。争いを避けることは困難を極める。優先は自分の身を守ること」
「分かってる」
もちろん、自分の身を守るための準備はする予定。
その為の防御魔法を作る。
それとは別で止める手立てを聞いている。
「多くの血が流れる。同族と世話になってる神狼族の血が流れるのは、僕にとって許容は出来ない」
止められるのなら止めたい。
多くの血が流れるのを避けたい。
あの場では何も言えなかったけど。
僕は関係者で戦争参加者だ。
なら止める権利がある。
「種族間の戦争で止める術はある」
「それは?」
困難を極めると、彼女は先に言っている。
その上で方法があると言うのだから、困難な方法。
それでも出来るならしたい。
「まず今回のケースのみ、地龍がこの山に攻め込まない方法は主が傘下に下ること」
「僕が傘下に入れば止まる?」
「その可能性がある。最も既に戦争の準備をしていたら効果あるとは言えない」
……元々は僕目当てだからそうなのか? それなら別に難しくはない
あの2人の話を聞いて、僕は傘下に入りたくないと思っている。
だけど、それを受け入れて戦争が止められるのなら悪くは無い話だ。
最もシクは可能性で、確実ではないという言い回しをしている。
「傘下ましてや同種では無い龍の下に付く事は、隷属を意味する。白龍という点を含めても余り良い待遇とは思えない」
「……それは嫌だなぁ」
僕もあの2人の様子からして、良い待遇とは思っていなかった。
言語化されると、嫌なイメージが固定化させる。
隷属の先にある扱いなんて嫌な予感しかしない。
成功の確率が低く、リスクが高い。
「他の案は戦争をほぼ確実に止められる。だが主1人でどうにかなる代物ではない」
「それでも教えて欲しい」
「……先程、私は神狼族の全勢力が揃えば共倒れをすると言ったな」
「言ってたね。それが?」
「共倒れになるほどの戦力の衝突は避けられるケースが多い。それが種族全体であれば尚の事」
「そうか、戦争で勝っても壊滅したら意味無いもんね」
勝てたとしても、種族全体がボロボロになっては意味が無い。
種族同士の戦争は勝った後も重要だ。その後に、立て直せなければ勝っても滅びる。
そして地龍は種族全体で、1つの集団を形成しているからその影響を大きく受ける。
「つまり王が動ける想定で地龍相手に対等以上の戦力を揃えるってこと?」
「然り、かの地龍の王が老いたとして、無謀は仕掛けないはずだ」
確かにこれなら行ける気がする。
同時に僕1人で、どうこう出来る話とも思えない。
やるなら神狼族の他集団を集める事。
しかし、何処にいるかなんて知らない上、初対面でそれを言っても、まともに取り合ってはくれない事は予想できる。
……確かに僕がどうにか出来る手じゃない
「次の案は第3勢力を動かす。人族や他の種族が戦争後に攻め入る動きをしていれば、勝っても攻め落とされるリスクを作れる」
「戦争をしたら危険だと理解させると?」
「そうなれば止めざるを得ない。先の案よりも確実なリスクとなる」
対等な戦力を用意しても、実際に戦わないと被害は分からない。
しかし、第3勢力であれば、疲労時に叩かれるリスクと、確実に被害が出ると考えさせることが出来る。
……用意するためには人脈が必要……
他種族で話せるのは、商人の男性と大和、槍の勇者くらいだ。
話せたとして、第3勢力を作る程の戦力をかき集められるかは微妙。
商人は人脈多そうだけど、そこまで僕に協力する義理がない。
2人は勇者の力があるから、戦力にはなっても日が浅い今では多くの仲間を、集めるのは難しいだろう。
こちらも絶望的、僕に人脈があれば良いけれど、そんなものを引きこもりが持っているわけが無い。
「シクは第3勢力集められる?」
「私に人脈は無い。戦争に興味はない」
「これで全部?」
「最後にもう1つ、集団は長を失えば統率を失い、地龍が攻め込むことは出来なくなる。ましてや最古の龍が落ちればその影響は尋常ではない」
「それってつまり……」
シクは今までの案よりも、さらにとんでもない話をしようとしてる気がする。
続く言葉が何となく分かる。
合っているとして、確かにそのやり方が一番確実だ。
「主が地龍の王を倒す事」