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第92話 神狼族

 声の主は崖上で僕たちを冷たい目で見下ろしていた。

 彼女の綺麗な薄青髪が風によってなびく。

 戦闘態勢に入ろうとしていたウーヴェンは、露骨に舌打ちをする。

 アーヴィンは、彼女を睨みつける。

 2人も彼女の事は、無視出来ないようだ。

 それもそうかと、僕は1人納得する。

 何せ、この山を支配する神狼族の長が現れたのだから無視はできまい。


 ……フィリスさん、監視役が報告したのかな


 フィリスさんは崖から飛び降りて、僕らの元へと歩いてくる。

 そして2人を冷たい目で睨みつける。


 ……なんだか寒くなってきた


 周囲の気温が下がったかのような寒さを感じる。

 先程まではまだ夏のような気温だったのに、いつの間にか冬に入りたてくらいの気温になっている。

 寒さに身を震わせる。


「貴方に用はありませんよ。失せなさい獣」

「オオカミ風情が図に乗るんじゃねぇよ」


 2人はフィリスさんに怯まない。

 むしろ、食らいつく勢いだ。


「貴様らの踏み入る領域は無い。失せろ地龍共、それとも我らと戦争でもするか?」

「あぁ?」

「2人相手に1匹で勝てるとでも? 思い上がりましたか。獣風情が」


 空気がピリピリと震える。

 いつ戦いになってもおかしくないほどに

 一触即発の雰囲気が漂う。


「あの老害に従う事しか出来ぬ能無しがよく吼えるな」

「てめぇ、王を愚弄するか」

「身の程をわきまえない獣が……」

「我を1匹だとほざく奴が能無し以外の何と呼べる?」


 フィリスさんは笑う。

 アーヴィンの言葉を嘲るように笑う。

 僕がその笑いの意味を理解出来ないで居ると、2人が突然、ゾワッと身を震わせる。


 ……な、何が起きた? 後ろ!?


 その直後、後ろから気配がして僕は振り返る。

 後ろには大きなオオカミ達が居た。

 薄灰色のオオカミや血のような赤色の毛を持つオオカミ、黒色のオオカミなど、色様々なオオカミがそこには立っていた。

 数は10程度居る。


 ……いや、森の中にも潜んでるなこれ


 ここに出てきた者で全員ではなく、森の中に潜んでいると気づく。

 潜んでいる者も含めると、もっと居ることが分かる。

 そして、全員が2人を睨み付けている。


 ……まさか、ここに居るのは……


 僕はすぐに理解した。

 彼らはサイズや毛の色に差はあれど、フィリスさんと同様の存在だと。

 全員が同等の圧を持っている。

 僕が最初の頃に倒したオオカミなんか比じゃない強さを持つ者たち。

 彼らは皆『神狼族』だ。


「ナワバリに侵入しておきながら、長1人が相手をすると考えているのか?」

「我らのナワバリに踏み入るとは命知らずが」

「いつもは洞窟に引きこもっておる地龍共か。動くとは、それほどに白龍が欲しいか」

「地龍の王も歳には勝てないか。悲しい物だ」


 それぞれが思い思いに言葉を紡ぐ。

 彼らも地龍のことを知っているようだ。

 地龍の王についても触れている者も居るからやはり有名なのだろう。

 僕の前に白銀のオオカミが静かに立つ。


「貴女はお下がりください」

「あ、う、うん、わかった」


 言われた通り下がって見守る。

 既に僕が踏み入る話では無くなっている。

 僕が傘下に入るかどうかではなく、神狼族と地龍の話に変わっていた。


「てめぇら、全面戦争になってもいいのか? 俺たちに勝てるとでも思ってんのか!?」

「先代を失い力を落とした分際で、良いでしょう。我らが王に報告します。震えて待ちなさい」

「失せろ。我らは気は長くない」


 2人は大人しく立ち去っていく。

 一旦、この場では戦いにならずホッとする。

 だけど、戦争始まるような話をしていたから本当に一旦なだけだろう。

 なぜこうなった。


「と、とんでもない話になってたけど……」

「気にするな。龍共は大抵あれらのような奴が多い」

「そうなんだ……」


 ……実は、龍種って傲慢が姿を得たみたいな存在だったりする?


 同族意識があるだけにショックがある。

 同族が傲慢の塊とか普通に嫌なのだけど。

 龍は生物内でもかなり強い存在らしいから仕方ないところはあるかもしれない。


「これが白龍、間近では初めて見た」

「本当に白い」

「ウロコも真っ白」


 オオカミ達が僕を囲んで色々と見ている。

 飛竜も言っていたし今回の地龍? 達も言っていたから僕は珍しい個体なのかもしれない。

 オオカミ達は興味津々に翼やウロコを見ている。


 ……白龍だから龍のアルビノ個体ってことかな? だとしたらこれは色素が薄いから白いのか?


「うつけ共、離れろ。地龍と関わりはあったのか?」

「いや、関わりなんて一切無いよ。突然傘下に下れとか王の指名だとか言われたけど」


 飛竜以外だと同族を見たのは初めて。

 ましてや、地龍の王なんて関わったことは無い。


「そうか、もし戦争が起きた時、貴様も狙われるだろう。自らの命を守る準備はしておけ」

「……だろうね。準備する」

「引き上げるぞ」

「分かりました」

「戦争か。爪を研いでおかねばな」

「魔族の次は地龍か」


 オオカミ達は撤収していく。

 森に潜んでいた者たちも、いつの間にかもう居なくなっている。


 1人残されて僕は考え始めた。

 神狼族との全面戦争になった時に、僕も狙われるのは分かる。

 元々彼らが来た理由は僕を傘下に入れるため、そして僕はそれを断っている。

 既に彼らが言った怒りに触れる状況ではある。


 ……でも同族は殺したくない


 やはり龍種も殺したくないと思ってしまう。

 正直、あの2人は嫌いだし勝手な事を言う上で、容赦のない地龍の王も嫌い。

 だけど、殺したいほどではない。


「戦争の余波が怖いから、小屋や植物守る防御魔法でも作ろうかな」


 僕は小屋に戻って、魔法の製作を始める。

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