第90話 翼による飛行
「これなら行ける」
「動かせるか?」
「勿論」
純白の翼を動かし、地面からゆっくりと離れていく。
翼を動かす方法は、龍体の時に掴んでいる。
だから翼はほぼ自在に動かせる。
龍の時よりは力は必要ない。
……おっと、人型だから感覚違うな
感覚を試していると、少し体勢を崩した。
龍体と人型ではかなり感覚が違う。
大きさも形も違うからだろう。
扱いづらい。
「よし、次はこうして……うぉっ」
「見事に回転した」
翼を羽ばたかせると、勢いのまま身体がぐるっと回転して体制を崩した。
空中は足場が無いせいで一回転してしまった。
強く動かし過ぎたようだ。
龍体のように力強くは危ないかもしれない。
「思ったより細かい操作が必要かぁ。これは慣れるのに少し時間がかかりそう」
「移動は出来る?」
「うん? ちょっと待って」
翼を動かして体勢を戻す。
そして翼を大きく動かして勢いよく飛ぶ。
素早い飛行で簡単に湖の端から端まで届いた。
想像よりも早い飛行。
「ほう、早い」
……早い……ってヤバっ!?
速度が落ちずにそのまま、木々が生えている方で突っ込んでいく。
このままだと激突する。
必死に翼を大きく動かす。
そして、勢いよく上空に身体を投げ出すように飛ぶ。
「あっぶなかったぁ……」
ギリギリ上へ飛行した事で、何とか事なきを得た。
今のは心臓にかなり悪い。
あの速度のままに、激突していたら流石のこの身体でも無事では済まなかった。
そう想像出来てしまい身を震わせる。
……怖いから大人しくしよ
危険な真似はしないと心に決める。
怪我する前に大人しく降りる。
軽く翼を動かして、ゆっくりと地面に着地する。
安全に着地出来てホッと一息つく。
僕は周囲を見渡す。
ここは目的の湖の右側だ。
左側から見ていたのと印象は余り変わらない。
「土地はどうだ?」
「……その移動方法は魔法?」
シクがヌルッと現れた。
さも当然かの如く、一切その事に触れずに土地について聞いてくる。
凄い便利そうな移動方法。
見ている限り、恐らくは転移やワープ系の能力。
「種族特性」
「一緒に連れてってくれない?」
「残念、これの対象は私だけ」
「狡いなぁ」
この龍の身体もだいぶとんでも性能しているけれど、シクもシクでだいぶやってる事が凄い。
瞬間移動だけでなく、刀に力が付着すれば魔眼殺しの妖刀になる。
魔法についても博識。これに関しては個人かもしれないけど……
種族名、侵食。
一体どういう種族なのだろうか。
「生物界最強格の龍が言うのは変な話」
「まぁ、それは確かに」
「土地は、問題なさそう」
「うん、ちゃんと広い。ここなら想定通りのちゃんとした畑作れそう」
最初の目的であった、湖を渡る移動は出来るようになった。これなら短時間で往復出来る。
土地も間近で確認して広くて良いと分かった。
土壌関係は見ても分からないけれど、前に作ったあの魔法でどうにか出来る。
それに見るからに酷いという感じではない。
……早速、植物の移動をしようかな。……ゆっくり落ち着いて
善は急げという訳で、埋めていた植物を丁寧に掘り起こして翼で湖を渡る。
もちろん、落ち着いた安全飛行を心掛けて湖を渡る。
激突しそうになるのを避けるために気をつけて飛ぶ。
湖には障害物はないからまっすぐ進めて気が楽。
……この植物は新しいの生えてきたと思ったら根っこで繋がってるんだ。面白い仕組み
最初に見つけた茎が食べられる植物は、新しい芽と根っこが繋がっていた。
土の中で広がり繁殖していくのだろう。
土に根っこを張る植物らしい繁殖の仕方と言える。
「妙にゆっくり」
「さっきの出来事が怖くて」
「その身ならば傷など負うまい」
「あの勢いだと怪我しそう」
「そのウロコは飾りか?」
シクは僕の腕を指差す。
「あっ、忘れてた。確かにこのウロコで防御したら傷つかなそう」
両腕のウロコを見る。
普段の肌よりもかなり硬いウロコ。
自分から生えている物だけど、ウロコは傷ついても痛みを感じない。
気軽に盾として扱える。
……戦闘が起きた時、盾に使おう
攻撃を防ぐ盾に出来るウロコを、人型の状態でも使えるのは大きい。
戦闘で傷を負うリスクを減らせる。
6種類の植物を移動し終えた。
植物たちを丁寧に土に埋めてから、魔法を詠唱して効果を土に注ぐ。
「次は柵」
「どのくらいの範囲か決めてる?」
「せっかく広いからこのくらいがいいかなと思ってる。どうかな?」
「狭過ぎないから悪くない」
「でしょ」
ゴーレムに集めさせた木で物体操作でポンポンと手早く柵を作っていく。
しっかりと地面に突き刺し、土の中で繋ぎ固定する。
柵の外に根っこが伸びないように阻む形を取った。
上手く行くかは分からないけど、上手く行ったらこれで外には繁殖しない。
それから飛行訓練も兼ねて毎日様子を確認に行く。