第83話 塩辛い果実の試し
「よし、作れた。使うならもう何本か取ってきてからがいいかな」
「物は試しでやってみたら良い。魔法の効果が出るまで長くは無い。効果ありそうならばそれから量産体制を取れば良い」
「それもそうか」
2つの植物を埋めてある場所に向かう。
この2つは、既にほとんど育ち切っているから期待するのは繁殖だ。
1本から数が増えていけば、新しい植物を取りに行かずに済む。
ただ、この植物たちがどういう原理で成長するから分からないからそう簡単には行かなそう。
埋めてある土に触れて、詠唱を始める。
「……土よ、龍体たる僕が汝に力を分け与える。魔力を血肉とせよ、僕は故に命じる、芽吹く命に繁栄の力を、命の本流となりて永劫を汝らの手で果たせ! 大地に芽吹きを」
詠唱が完了して、魔法が発動する。
魔力が土の中に流れ、元々あった魔力と結びつき変化していく。
植物の栄養となる成分が活性化し、植物に取り込まれると成長を促進させる。
この土の魔法は一定範囲の土に、影響を及ぼすことが出来る。
土全体に、僕の魔力が駆け巡る。
ゆっくり手を離す。
「無事成功」
「ではしばらく待つか。大地が魔力を取り込むまでに時間がかかろう」
「なら魚食べよ、あれが調味料として使えるか試す良いチャンス」
「あの塩辛いという果実か」
「そうそう、少しなら甘い塩って感じに出来そうなんだよね。果実だから植物由来の栄養もありそうだし」
「塩か。珍しい植物もあるものだ」
「魚食べる? 取ってくるけど」
「では任せる」
「了解」
湖に着き、無貌の形を腕輪の形に変化させ裸になる。
普段、隠してる肌が外に晒される。
水の中は肌で水の流れを感じられるから、裸の方がやりやすい。
……あっ、準備運動しないと
そして、軽く準備運動をする。
水の中で足をつったら危ない。
最悪、溺れかねない。
そうなったら助かるか、分からない。
シクが助けに来てくれるか分からないし、ゴーレムは僕より先に沈みそう。
「あっ、ゴーレム。落ち葉や枯れ木を集めてきて、あと枯れてない木の枝も」
火を起こす為の材料集めをゴーレムに任せる。
命令を受けたゴーレムは、のそのそと動き出してちまちま集め始める。
いつも通り、水の中で周囲をキョロキョロと見渡して良さそうな魚を探す。
魚の種類が多いから、どれがいいか悩む。
本当にこの湖は魚が多い。しっかりと生態系が築かれている。
……今日はあれかな。大きさも丸焼きに丁度良さそう
待ちの構えで、目の前を通るのを待つ。
全身の肌で、水の流れを感じる。
魚の動きがよく分かる。
そして、手の届く範囲に魚が来た瞬間に動き出す。
素早く腕を振るって掴む。
両手で、1匹ずつ掴み水上に出る。
「一気に2匹取った」
「流石龍、容易いか」
「凄いよね。この身体、魚が反応出来ない」
よっと、と陸に上がる。
ゴーレムが集めていた枯れ木に、小さな炎を近づけて燃やす。
メラメラと燃え上がる炎を見つつ、ちょうどいい火の調整を行う。
そしてその間に木の枝を、魚の口から突き刺して焼く準備をする。
枝が燃えないように、気をつけて魚を焼く。
「なぜ裸のまま?」
シクが僕の格好に疑問を投げかける。
水の外に出ても裸なことが、シクにとっては不可思議なのだろう。
「魚取る時、シク居なかったっけ?」
「興味無いから気にしていなかった」
「あぁ、なるほど、君と違って水の中入るとびしょびしょになるから火で乾かしてるんだよ」
遺物たる無貌で作った服でも、びしょびしょのまま着れば濡れてしまう。
それは風邪を引いたり体調を悪くする原因だ。
いつも魚を食べる時に、火で身体を乾かしている。
シクみたいに水に濡れない身体だったら良かったけど、異世界でもそんな甘くはないらしい。
「そんなことよりもこれ」
「果実か」
僕は果実を持ってくる。
塩辛かった果実だ、口に入れた分は吐き出してしまったけれど、残りはちゃんと回収した。
軽く指で果実から一部を抉り取る。
焼き途中の魚の上で、軽くすり潰して振り掛ける。
シク用の方にも軽くかける。
……この位の量で十分かな
多すぎても、塩辛いから少しだけで試す。
足りなかったら、増やせば良い。
僕の考えが合っていたら、味が劇的に変化する。
そして、食が豊かになる。
魚をいい感じに焼き終えて、木の枝の熱くない方を向けてシクに渡す。
受け取ったシクは熱さを気にせずに食い付いて、もぐもぐと小さい口で食べ始める。
僕は魚に少し息をふきかけ、冷まし食らいつく。
「なるほど、これは」
「これは!」
シクが何やら納得している時に、僕は大きく驚きの声を上げた。