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第8話 自分の顔

 戻ってから昼食を取る。

 太陽らしきものの位置から、おそらくは今、昼頃だと推測する。

 位置を確認した物は、恐らく大陽だとは思うが、違う可能性がある。

 まだ腹は減っていないけれど、念のために少し果実をかじり水を飲む。


 ……午後は何をしようかな。服用にオオカミ探しか……。でも、あまり遠くまで出歩きたくないな


 衣服用にオオカミの毛皮狩りを考える。

 現状衣服に使えそうなものを持つ生物は、オオカミしか見かけていない。

 ただ僕は現在その肝心のオオカミが、どこにいるのかを知らない。

 水場に着いてから、一切見かけていない。

 そのため、この水場の付近には、生息していないとは考えられる。


 ……僕が来た方角はあっち側だったはず


 昨日オオカミと出会った場所なんて、大体こっちの方くらいでしか覚えてない。

 もちろん、目印なんて残していない。

 正確な距離は分からないけれど、この水場からかなり離れているのは覚えている。


 遠い以外にも問題がある。

 オオカミと遭遇した場所の近くで、僕は人(冒険者)と遭遇していること。

 あの付近で活動していたら、また同じように接敵するリスクがある。

 そして人と遭遇したら、おそらくまた同じように戦闘になるだろう。

 そうなってしまったら、現状は逃げの一択だ。

 逃げた後も問題

 追跡を振り切ることができたら大丈夫だけど、逃げきれなかった場合、この水場の周囲で生活していることに気づかれる恐れがある。

 そうしたら、徒党を組んで殺しにくる可能性があり、ここから離れないとならない。


 他の湖がこの森にあるか不明。

 その上、物資もろくに揃っていない今、ここを離れるのは厳しい。


「うーん、しばらくこれで我慢するかぁ。近くに良い毛皮持った生物でも居たりしないかな」


 少し考えてオオカミ探しは断念する。

 リスクとリターンが釣り合っていない。

 偶然オオカミか、別の獣か、この付近で見つけられることを祈る。

 水場だから、水を飲みに来てもおかしくない。


 目覚めた時から着ていた服は、ところどころ穴が空いていて見るからにボロボロ

 その穴から白い肌も見えている。

 これ一着だと、もうあまり長くは持たないと言う印象を受ける。

 手に入るなら早めに欲しい。


 ……まぁ人目がないし遭遇しないなら最悪なしでもいい気はするけど


 この肉体は、かなり頑丈だ。

 この布切れの数倍は硬い。

 そこらの木の枝や葉っぱに触れたところで、この身体には、傷1つつかないだろう。


 実際剣や斧の一撃を受けても、ビクともしなかったし、森の中を裸足で歩き回っているけど、汚れてはいても足に傷一つついてはいない。

 この布切れでは、そんな芸当は出来ない。

 それを含めて考えたら、しばらくは衣服が要らない可能性はある。

 もっともそれは、他の人や同族に会わないことが、前提である。

 流石に出会った時に、裸なのは不味い。


 ……昨日今日連続で着てたからか新しい汚れがあるな


 昨日は、土にじかで寝ていた。

 それ以外にも昨日一日と今日半日、森の中を歩き回っていた。

 ボロボロでも土や葉っぱなどの汚れは、かなり目立つように感じる。


「……洗った方がいいよね」


 昨日からずっと同じ物を着ているから、洗わないと不衛生だろう。

 この世界のことはほとんど知らないけれど、病気が存在する可能性は高いと思われる。

 今、病気にかかったら危険

 薬がなく病気の知識を持つ人も居ない今、病気にかかったら対処できない。

 僕は、病気に関する専門的な知識を持たない。

 対処できなければ、回復出来ないままにそのまま死亡も有り得る。

 死なずとも、後遺症を負うリスクがある。

 脳裏に死という言葉が横切った……怖い。

 すぐに洗おう。


「……今日洗おう。そうしよう……あっ、せっかくだし洗うついでに魚取ろう」


 パッ、と思いつく。

 そういえば、まだ魚は取っていない。

 食料は現状果実だけ食べている。

 このまま、果実だけの生活を続けると、いずれは飽きてしまう。

 飽きるだけでなく、栄養が偏る危険がある。

 それに午前で、果実数日分は確保した。

 午後も果実を集めては、取りすぎだろう。

 取りすぎたら、食べきれないで腐らせてしまう。

 それは勿体ない。


 果実以外の食料で、現状思いつくのは魚。

 この水場には、魚が泳いでいることは確認済み。

 水場を覗き込む。

 水面に白髪で白い肌の少女が映る、歳は16〜18程度だろうか。

 これが今の僕の姿なのだろう。


 ……すっごい美人、こんな顔だったんだ


 この身体の使い方が分かった時点で、女性の身体とは理解していた。けれど、今初めて僕は正確に自分の顔を確認したのだ。

 顔立ちが整っていて、かなりの美形だと感じる。


 水場の方は、底が潜れる程度には深いと分かる。

 透き通っているため、見通しもよい。

 魚を捕るのは初めての体験。

 もちろん、魚を獲るための道具は何もない。

 一回目から、獲れる自信はないけどちょうどいい。


 ひとまず周囲に誰もいないことを、しっかり周囲を見渡して確認する。


 ……誰もいないね


 服を脱ぐ。

 ボロボロの布切れの下には、何も付けていないため、今の僕は裸である。

 顔を下に向けると、胸が見える。

 性別が変わっていながら目覚めた時、あまり違和感を感じなかった理由が分かる。

 僕の胸の膨らみは、あまり大きくない。


 ……あれ、思ったよりはあるな


 しかし、感覚的に感じていたよりも、なんだか大きい気がする。

 指で軽く触れて撫でる。

 滑らかな肌に柔らかい弾力が加わっている。

 風が肌を撫でると、くすぐったく少し肌寒く感じる。

 ハッとする。

 今は身体の確認の時間じゃない。


 ……服洗わないと


 服を水につけて、しばらくゴシゴシと水洗いをして汚れを落とす。

 力で破かないように、気をつけて丁寧にやる。

 破いたら着れる服が、無くなってしまう。


「このくらいでいいかな」


 汚れは落ちた

 しかし、代わりにびしょびしょになった。

 このまま着たら、風邪を引いてしまう。


 ……乾かすのは……


 周囲を見渡す。

 何か良い感じに、乾くまで服を置いておける場所がないかと探す。

 小屋が目に入る。


 ……小屋、あっ、ドアノブにかけておけばいいか


 小屋の扉についてるドアノブに、服をかける。

 今日の天気は青天ではないけれど、晴れ、涼しい夏程度の気温。

 しばらく置いておけば、乾いてくれるだろう。

 服が落ちないことを確認してから、水場に戻る。

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