第78話 終戦
戦い続けて、どんどん数を減らす魔族。
燃え上がる炎を、複数に細かく分割する。
そして、狙いを定めて纏めて放つ。
放たれた炎は、うねる大蛇のような炎の軌跡を残して魔族に食らいつき焼き尽くす。
肉薄してきた魔族に、剣で攻撃を仕掛けた。
風切り音が鳴ると、同時に魔族の肉体は2つに分かれて消滅した。
……あの2つは使わなくてもいいか
周囲を見渡して、戦況を確認した。
理想郷と反理想郷も、再度起動は出来る。
だけど見た限り、問題が無さそうだからこのままの殲滅を続ける。
あれは魔力の消費が大き過ぎる上、反撃能力である以上時間がかかる。
「魔法は使うか。自然の原理よ、高らかにその力を鳴らせ。走れ雷閃」
魔法の詠唱をして発動する。
雷鳴を鳴らし、複数の雷が空を駆け抜ける。
軌道上に居た魔族を、次々と刺し貫く。
炎と雷閃による殲滅で削っていく。
次から次へと、襲いかかってくる魔族を倒していく。
騎士たちは一切陣形を崩さず、上手く立ち回り確実に数を減らす。
勇者は1人で動き回り、素早く槍を振るい切り裂き纏めて貫く。
ゴーレムも腕を振り回して、殴り飛ばして、壁や地面に叩きつけている。
優勢だ。
それからしばらく戦闘は続き、最期の1体を勇者の彼が倒し終えて防衛は終了した。
僕がここに着いてから死者はゼロ、村人達にも被害は出てなさそうだ。
もっとも、僕が来る前がどうだったかは分からない。
……これで終わりかな。うーん、また建て直しが大変そうだな
新しく建てられた家も傷を負い、修復しないと崩れるリスクがある。
この集落の復興に、時間がかかるのが分かる。
ただ今回は、不幸中の幸いか建物の被害も人的な被害も少ない。
これならすぐにでも、村人や騎士が復興に取り掛かるだろう。
「終わったし帰るか」
身体強化に切り替えて、家の上に飛び乗る。
ギシッ、と屋根が音を鳴らす。
素早く屋根を上を移動して、外へ向かう。
村人たちが避難場所から出てくる前に、さっさとこの場から逃げる。
龍がこの場に居ることを、村人に見られると面倒なことになる。
僕も魔族と戦い助けたとはいえ、龍は危険な存在という認識がある。1回如きの助けでは染み込んだ認識は覆りはしない。
それに僕自身、感謝されたくてやった訳でもないから、集落に残る理由は無い。
「ゴーレムは……2体戻ってこい」
村人を守っていた2体のゴーレムに、小屋に戻るように指示を出す。
指示を受けた2体のゴーレムが、集落の外に向かって歩いていく。
僕も集落の外に出てゴーレムと合流、充分離れたと思い足を止める。
そして、木にそっと寄りかかる。
大きく息を吐く。
魔力もかなり使い、戦闘続きで疲れた。
想定より魔族の数が多かったから、時間もかかった。
念の為に、ゴーレムに持たせていた水筒を受け取り水を飲む。
少し温いが水は水、喉を潤してじんわりと疲れた身体に染み渡る感覚がある。
「魔族を倒しきったか」
木の影から、ひょこっとシクが現れた。
相変わらず音もなく、何処からでも現れる。
近くに来てたなら、参戦してくれてても良かったのにと心の中で囁く。
「戦いに参加はしない。戦など私には不要」
僕は、ビクッと身を震わせる。
……僕、今のは声出してないよね? ナチュラルに心読むの怖っ
僕は、今声を出していない。
なのに、何か普通に答えが返ってきた。
うん、怖い、なんで心読めるん。
「魔族の数多過ぎない? 疲れた」
「奴の眷属だからな。無尽蔵に湧く」
「もしかしてマシな方?」
「弱い奴ばかりならば、数は多いけれど運はいい」
「なるほど、これで運がいいのかぁ」
確かに強い魔族ばかりだったら、僕も苦戦を強いれていただろう。
その上で、ほぼ確実に騎士や村人には死者が出ていただろう。
そうならなかっただけ、今回の襲撃は運に恵まれていたようだ。
これで、幸運だと言うのだから恐ろしい。
運が悪かったら、どんな魔族が現れたのだろうか少し気になる。
……前言ってた龍みたいな魔族が何体も出てくるとかかな……うっわ、絶望的
想像するだけでも嫌な気分になる。
思わず顔をしかめる。
休憩しながら、質問をする。
「でも、あの悪魔みたいなのは強いの?」
「悪魔? あぁ、デーモンか。強いぞ」
「どのくらい?」
「あの勇者の現状では突破が不可能」
「いまいち分からない……」
あの勇者は小さい魔族は楽々仕留めて、あの魔族ともやり合えていたから強いのだろうけど、どのくらい強いかまでははっきりとは分からない。
ただ、大和より戦闘慣れはしている雰囲気があったから、大和よりは強そう。
「大和だとどう? やっぱり勝てない?」
「あの勇者ならば聖剣の力がある。困難だが決して不可能ではない」
「あれを突破する高火力攻撃があるかないかか……」
……それは相性ゲーだな
彼自身も、高火力はないと言っていた。
同じ勇者でも使う武器によって、得意不得意があるのだろう。
逆に言えば、あの聖剣の高火力と同等の何かを持っていることになるから恐ろしい。
素直な高火力じゃない分、能力によっては敵に回ったら厄介そう。
「あの魔法で仕留める判断は素晴らしい」
「それは硬いって情報と、高火力の注文があったから複合も使ってたしちょうど良かった」
「なるほど、的確な判断だ」
もし彼が言わなければ、使わずに戦っていた。
そうなっていたら勝てはしても、苦戦は免れなかっただろう。
彼のしっかりとしたスムーズな情報共有には、かなり助けられた。
去る前に、軽くでも話すべきだったか。
……いや、もう会うとも思わないしいいか
今回は協力したけれど、勇者と龍の僕は本来なら敵対関係だ。
下手に会わない方が得策だ。
僕が人に害をなさないというのは、今回の協力で、あちらも理解したはず。
なら、距離を置くのが正解だ。
……似た境遇の知人になれたら良かったけど
僕はため息をつく。
龍である以上、人とは迂闊に関われない。
休憩を終えて小屋に戻る。