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第75話 対策済み

 騎士の持つ剣の先が僕に向く。

 刃に何やら紋章が描かれているのが見える。それは、鎧についてる紋章と同じ物。

 騎士に配布される剣なのだろう。

 魔族との戦いで、ボロボロになったのだろう。

 守り戦った証拠だ。


「死ねぇ!」


 騎士は剣を振り上げて、突っ込んでくる。

 そして、目の前で腕を振り下ろす。

 その瞬間、1つの轟音が響く。

 その音を聞いて、僕は安堵する。

 騎士の攻撃は、もう僕には届かない。

 彼は、腕を振り切った。

 剣の代わりに、赤い液体がべったりと、僕の前に出現した透明な壁に張り付いた。


 ……ちゃんと発動してるね。ちょっと焦った


 発動していないか、と思い焦った。

 目の前にある赤く染った元透明の壁は、理想郷の能力の一つ。

 僕が守る対象に含んだ中に、僕や周囲に害をなす者がいた時に、敵意を僕に伝えバリアを展開する力。

 理想郷では、攻撃による被害は許されない。

 だがそれでは、赤い液体が飛び散ったことへの理由にはならない。


「うぁぁぁ! 腕がぁぁぁ!!」


 騎士が膝をついて、大声で叫ぶ。

 すごいうるさい。

 確かに、僕もあの状態になったら叫ぶ。

 その気持ちはわかる。

 だけど、これはあの騎士の自業自得なのだ。凄い不愉快に感じる。

 彼は、僕に剣を振り下ろす事は出来なかった。


 それは何故か?


 それは、反理想郷の能力によって阻まれたからだ。

 理想郷は防御の力、反理想郷は攻撃の力。

 理想郷と同じく、内部にもその力が及ぶ。

 外部は砲撃、なら内部は?

 騎士たちがザワつく。

 轟音を鳴らした正体に、気づいたからだ。


「なんだあれは……黒い騎士か? あれも魔法なのか?」

「召喚魔法か? いやだが、あれは人なのか?」

「黒い騎士? いやちげぇ、あれは鎧じゃねぇな……なんだあれは」

「手に持ってるのは一体なんだ? 見た事ない武器だ」


 真っ黒な人型の何かが、僕の前に現れる。

 数は、5人居る。

 反理想郷の能力によって召喚された者達。

 害をなす者が現れた時、僕の周囲に護衛の兵士が現れる能力。

 理想郷と同一とする魔法の効果ゆえに、理想郷の防壁を無視出来る存在。

 反理想郷の兵士は鎧は付けていない。武器として剣は腰につけているが、主要武器は違う。


「多分こっちには無い武器だよ。魔法がないが故に生まれた武器、僕は嫌いだけどね」


 個人で扱える遠距離攻撃の手段が、乏しかったあちらの世界で生み出された、殺害に適した効率的な武器。

 使い方さえ知れば、兵士でなくても男でなくても、子供でも、女でも、使えてしまう。

 鳥に、人に、形を変えて脅威を伸ばした魔法のない人類史の武器。

 正直かなり嫌いな武器だ。良い印象はどうしても持っていない。


 ……まぁ使ってるのはだいぶ古いタイプだけど


 彼らが持っているのは、長い銃身を持つボルトアクション式のライフル銃。

 これは、思いのほか、反理想郷という名前のイメージに引っ張られ過ぎたことが原因だ。

 あの名前で、想像つくのがこれだった。

 古い型の銃器ではある。

 それでも、あちらの世界で大活躍した武器だ。この世界でも脅威になるのは変わらない。

 膝をついて叫んでる男に、兵士の1人が銃身を頭に突き付ける。


「な、なんなんだお前らは!」


 男が、兵士に向かって叫ぶ。

 兵士は返答はしない。

 静かにライフルの引き金に指を乗せる。

 仇なす者の公開処刑を、行おうとしている。


「止まれ。もうそいつは害を成せない」


 僕は、指示を出す。

 あの騎士は、先程の一撃で両腕を失った。

 腕の治療は出来たとしても、今この場では難しい。

 僕が治療の魔法は持っているけど、治療してやる義理もない。

 なら、もう戦うことは出来ない。

 無力化しただけで十分、殺すのは無駄。

 兵士は銃口を斜め下に向けて銃を抱えて、こちらに戻ってくる。

 彼らは、僕の指示に従う。


「この魔法の範囲で、僕に害をなす気なら次は殺す」


 騎士たちを睨みつける。

 一度、力は見せた。

 篭手を身につけた両腕を、吹き飛ばすほどの威力だ。

 騎士たちも、その脅威を理解しただろう。

 これならば、相当の馬鹿でもなければ、突っ込んでは来ない。


 ……あれ実銃ってあんな感じに鎧を撃ち抜くっけ?


 詳しくないから覚えていないけれど、なんか威力が高い気がする。

 まぁ、威力が高い方が良いから助かる。

 外を見ると、小さい魔族を砲弾が焼き払い次々と殲滅している。

 数が減っているようにも見える。


 ……この調子ならこのまま削れそう


「これは……何があった?」


 槍を持った男が膝をつく騎士と、僕を交互に見て困惑している。

 彼は、かなり疲労している様子を見せている。

 たった1人で、相当の激闘をしたのだろう。

 あのデカイのは、倒したのだろうか。


「僕の魔法の範囲内で敵意を向けたから」

「あぁ、なるほど、その5人は魔法か。外のあれと言いとんでもない魔法だな」

「倒した?」

「いや、削りはしたが硬い」


 想像より苦戦しているようだ。

 硬い敵は確かに厄介、硬いと言うだけでも倒すのが面倒になる。


「何かない?」


 何か突破の手段がないかを聞く。

 もっとも無いから、こっちに来たのだろうと考えられるけど。

 念の為に聞く。


「無い」

「高火力?」

「頼めるか?」

「もう少し魔力を使ったら」

「OK」


 彼はその場に座り込んで、持っていた水を飲む。

 あれの相手をしていたのだから、疲れたのだろう。

 引き続き反理想郷で、小さい魔族を殲滅していき魔力を消費する。

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