第73話 集落内部
集落について、直ぐに二手に別れる。
僕は大量の小さな魔族狩りに、彼はあのデカイ魔族を倒しに。
その際に、僕らの間に言葉はなかった。
どちらもやることは、決まっていたからだ。
……ゴーレムはまだ来れないか
ゴーレムは、漸く崖上に着いたところだった。
到着までは、まだ時間がかかる。
ゴーレムが居れば殲滅力が上がり、場合によっては彼の援護に入れる。
一度、炎に切り替える。
そして、燃え上がる炎を発生させ、分割する。
複数の炎を魔族目掛けて放つ。
その後、すぐに防御の力に切り替え突っ込む。
騎士たちが、避難を促しながら戦っている。
「数が多い!」
「想定以上の数だが怯むな! 我々が負ければこの集落は落ちる」
「うぉぉぉ!」
「皆さんは早くこちらへ、我々が殲滅しますから安心してください!」
鎧や剣がボロボロになり、血を流しても食らいつき戦い続けている。
自分の命より、人々の命を助ける為に、動いている。
人々を守る騎士の姿だ。
最初に会う人間の姿がこれなら良かったのだけど、と僕は心の中でつぶやく。
その中に居た1人の騎士が不意を付かれ、魔族の攻撃で剣を弾かれた。
弾かれた剣は少し離れた地面に突き刺さる。
武器を失い無防備な騎士目掛けて魔族が接近し、攻撃が振るわれる。
しかし、その魔族は縦に真っ二つに切れた。
当然、それは状況を見ていた僕の仕業だ。
弾かれた剣を引き抜いて、軽く状態を確認する。
剣は、まだ壊れていない。
これなら戦える。剣を騎士に投げ渡す。
騎士は慌てるも、しっかりと両手で受け取る。
彼らには、まだ戦っていてもらいたい。
「まだ戦いは終わってない。動け」
「貴女は……」
「あれは龍、どういう事だ」
騎士の1人がそう言うと、僕が助けた騎士以外は剣を向けてくる。
今はそんな時間ないのに。
ため息をつく。
協力体制じゃないと、槍使いの彼に文句を言いたい。
……ちょっと配置ミスしたなぁ。まぁいいや
「僕と戦って全員死ぬか、黙って魔族狩りに集中するかご自由にどうぞ」
僕は彼らにそう伝えて、剣で魔族を切り裂く。
今の言葉で、騎士たちはザワつく。
だけど、まだ足りない。
そう気づく。
だから、僕はもう一言付け加える。
それは彼らにこそ、効く言葉。
「君たちが死ねば避難させた人達は皆殺される。バカと話す気は無いから1度だけ、誇りか命か、君たちの守るべきものはどっち?」
それだけ言い放つ。
彼らの反応は、無視して剣で突っ込む。
そして、素早く切り裂いていく。
流れるように剣を振るい、撫で斬る。
ただ剣ではキリがない。
でも炎を使うのは心配。
……まぁあれ想定なら先に使うべきか
ちらっ、とでかい魔族を見る。
槍を持った男が戦っているのが見える。
あの魔族と戦う想定で行くなら、出し惜しまない。
僕は、魔法を発動させる。
閃いた攻撃魔法を作る時にシクに使うのなら、他の攻撃魔法も覚えないと厳しいと言われ制作した魔法。
まさか、これ程早くお披露目になるとは、思ってもなかった。
「自然の原理よ、高らかにその力を鳴らせ。走れ雷閃」
魔力を込めた言葉を、僕は紡ぐ。
詠唱も自前、魔法も自前の攻撃魔法。
僕の周囲に魔力が集まり、雷に形を変える。
雷が空を駆け抜け、複数の魔族を撃ち貫く。
攻撃魔法 『雷閃』
魔力を複数の雷に変換して真っ直ぐ放つ魔法。
魔法の中でも、特に攻撃や防御の魔法は想像力が必要となる。
僕は魔法を余り見たことは無いから、魔法という魔法を余り想像が出来ない。
魔法っぽい魔法は、作れたのはたった一つ。
治療や妨害系は魔法が何かではなく、今欲しい力で想像していた。
そんな僕はあちらの世界にあった力強い自然の力を、魔法として実現、再現した。
……ちゃんと魔法も効くならあれも使おう、来たか
ちょうど、ゴーレムが到着した。
村人たちに襲いかかってきた魔族を一撃で薙ぎ払い、彼らの前に立つ。
迫り来る魔族をゴーレムは、その身をもって打ち砕いていく。
魔族の攻撃を受けても、軽く傷がつく程度で反撃で吹き飛ばす。
握り潰し、叩き潰し、薙ぎ払う。
「1体だけ僕の方に来い! 2体はそのまま死守! 絶対に通すな!」
ゴーレムに、指示を出す。
2体に避難し損ねた村人を守らせて、1体だけを自分の元に呼ぶ。
1体だけ走って、駆け寄ってくる。
そして、到着したゴーレムの後ろに隠れる。
「ゴーレム、僕を守れ!」
指示通りゴーレムは、僕を守り魔族を薙ぎ払う。
魔族の攻撃を腕で防ぎ、触れさせないように近付く者を殲滅していく。
僕は、ゴーレムに身を任せて、詠唱を始める。
唯一の魔法っぽい魔法を使う。