第72話 集落の様子
とりあえず、魔族を倒していく。
炎を分割して放つ。
ゴーレムは、魔族を纏めて殴り飛ばしている。
しかし、大量に居るため、燃やしても燃やしてもキリがない。
……集落が襲われてるなら……行きたいけれど
人々の身が危ないと分かっていて、助けに行かないのは、とても後味が悪い。
今の僕には、力があるし駆け付けられる。
だけど、自らの命をリスクとして賭けるほど助けに行くべきかは、悩んでしまう。
リスクがないという話も、途中で遮られ聞けてない。
……すごい気になる。何を言おうとしたのだろうか
どんな理由か、気になる。
本当に彼の言う通りになるのなら、ぜひ防衛戦に参戦したい。
悩んだ末に、僕は答えを出す。
「いや、行こう。力を防御にして戦えばいい」
炎による殲滅を諦めて防御の力を使うことで、奇襲されても身を守れるようにする。
そうすれば、相当上手く防御の隙を突いて奇襲されない限りは、攻撃を防ぐことも可能。
そして人前では、警戒を解かないことを意識する。
彼が走り去ってから、そんなに時間は経っていない。
まだ間に合う。
身体強化に切り替えて、強く地を踏み締めてゴーレムを引き連れて走る。
森の中には入らずに、川沿いを走る。
剣の届く範囲の魔族だけを、切り裂いて進む。
既に何かしらが現れたであろう集落に向かうなら、こいつらを相手にしている時間は無い。
通りすがりに、真っ二つにしていく。
ゴーレムの足は遅く、進む僕と距離が離れていく。
後ろを、ちらっと一瞥する。
……ゴーレムの指示は確か距離があっても有効、このまま行こう
一度出した指示は離れていても有効な事は、ゴーレムに材料集めに行かせていた時に気付いた。
だから今、ゴーレムの速度に合わせないで、全速力で行ける。
地面を強く蹴り、更に速度を増す。
ゴーレムを置き去りにする。
それから10分足らずで、集落近くの崖上まで着いた。
徒歩4時間あるはずの道を、全速力だと10分足らずで進めた。
身体強化を使っているとはいえ、異常な速さだ。ありがたい話だけど。
崖上から集落を見下ろして、状況を確認する。
槍使いの彼と遭遇しなかったことから、既に彼は集落に到着しているのだろう。
周囲の森から、魔族が集落に集まっている状況がよく見える。
そして、小さい黒っぽい赤紫色の生物以外の人では無い存在の姿が確認できた。
ひときわ、身が震えるような恐ろしい存在感を醸し出している存在。
「あれは悪魔か?」
あちらの世界で悪魔と呼ばれる創作の存在に、似ているように感じる。
見るからに厄介そうな敵だ。やり合いたくない。
集落にいる人々の様子を見る。
小さな魔族と戦っているが、どうやら押されているように見える。
倒せてはいるけれど、数の差で苦戦を強いられているのだろう。
あの様子だと、そう長くは持たない。
……向かうべきか
「早いなぁ。まさか追い抜かれるとは」
後ろから声がして、チラッと確認する。
槍を持った男が、森の中から出てきた。
いつの間にか、追い抜いていたようだ。
道中で見かけた記憶はない。
「居たの?」
「居たよ。それより集落の様子は?」
男も崖上から見下ろして、様子を確認する。
「押されてはいるけど負けてない。長くは持たなそう」
「それは良かった。わざわざ騎士を増員してもらった甲斐があった。それと……あれか」
男は、悪魔のような見た目の魔族を見る。
男の嫌な予感とは、恐らくあれの事だろう。
運がいいのか、まだあの悪魔のようなもの奴は戦いに参加していない。
叩くなら今がチャンス。
「どっちがあれと戦う?」
「俺がやる。もっとも勝てるか分からないから余裕が出てきたら援護して欲しい」
「……わかった。ならこれ」
木の札を1枚渡す。
男はなんの躊躇も無く、木の札を受けとる。
僕は表情には出さないが驚く。
この男は敵になるかもしれない相手から渡される道具を平気で受け取るのかと、罠と考えないのか、と渡した僕が若干引く。
不用心すぎる。
「魔力が込められてるな。それにこれは陣か」
「治療系の魔法、それなりの傷なら癒せるから」
「それは有難く使わせてもらうとしよう」
男は、木の札を鎧の下に仕舞う。
あれ1枚でも、彼が死ぬリスクは抑えられただろう。
案外、彼1人でも勝てるかも知れない。
「あぁ、そうだ名前は?」
「今必要?」
「必要」
「後にして」
「わかった。後で聞く」
男は槍を構えて、崖から飛び降りる。
僕も男に続いて、飛び降りる。
2人で集落に向かう。