第68話 今出来る万全の準備
今のうちに、できることをやる。
夜までは、時間がある。
なら、やれることはある。
フィリスさんは、数日のうちにと言っていた。
つまり、魔族が現れるのは今夜とは限らない。
確定ではないけど、時間的な猶予があるのは助かる。
……今から新しい魔法は……無理
新しい魔法を今から作るには、時間が足りない。
最善の行動が、何かを考える。
新しい魔法は無理でも、魔法関係で何かができそうな物があればそれをしたい。
既存の魔法でやれること。
「そうだ! 札を増やすかな。今回はどのくらいの規模か分からない」
治療魔法以外にも、札を使う魔法を作っている。
札を準備しておけば、必要な時に即座に使用ができるから数が多いに越したことはない。
それどころか札が少ない場合、戦闘中に使い切る可能性が高い。
そうなってしまったら、今の僕ではその魔法は行使できない。
だから、今のうちに札を増やしておく。
夜だけとはいえ、長期戦が予想できる。
今ある分では、心許ない。
昼間は軽く仮眠をしつつ、札の制作をする。
夜の間、朝になるまで、警戒を続ける必要がある。
だから、今のうちに仮眠して、夜中に眠くならないように対処を行う。
戦闘中に動きが鈍ったら、死ぬリスクが高まる。
「次はこの魔法を増やそうかな」
「ユウマよ。夕刻となった」
「えっ、もうそんな時間!?」
「集中しておったな」
「してたみたいだね。それなら札作りは終わりかな」
日が暮れ始めた。
急いで、戦いの前の支度を済ませないと。
作り途中の札は椅子の上に置いて、作った札はすぐに分かるように机の上に分けておく。
魔族との戦いは、小屋の付近で行うつもりだ。
小屋の損傷のリスクはあるけど、それは仕方がない。
小屋は壊されても、また作り直せる。
次、壊れたら別の形にするのもいい。
小屋の近くで、戦う明確な理由が2つある。
1つ目は、今作った札の大半が戦闘の時に持ち運べないことにある。
僕が使っているのは、木で作った札。
木の札は製作コストが低い代わりに、一つ一つが嵩張る問題点がある。
紙があればもっと多くを持ち運べただろうけど、ない物は計算に入れても意味が無い。
できる限り、札を持っていく予定だけど、小屋から離れた位置で戦い使い切れば、札の補充は出来ない。
補充のために小屋に戻っても、そこまでで戦闘にならないとも限らない。
だから、小屋の付近で戦う。
2つ目の理由は小屋の付近ならいざとなれば、小屋に籠って籠城戦も可能。
散々壊された小屋だけど、耐久性自体は悪くない。
基本的に攻撃してきた相手がおかしいだけで、決して脆くはないはず。
扉も反省を活かして石を混ぜたから、並の蹴りでは蹴り破られない。
破壊されても、物体操作で直せる。
それに、拠点防衛向きの魔法もある。
「夜になる前に風呂入ろ」
夜になる前に、風呂に入る。
無貌の形を変えて、裸になり湯船に浸かる。
ちゃんと肩まで浸ける。
やはり、風呂は落ち着く。
戦闘になるかもしれない緊張が、少しほぐれる。
「シクは魔族のこと知ってる?」
風呂に入ってる間も何もしないわけではなく、シクに話を聞く。
シクは結構物知りのため、魔族についても何かしら知っていそう。
戦う相手は、少しでも知っておいた方がいい。
「無論、知っている。彼奴の眷属」
「どんな姿してるか分かる?」
どんな姿をしているか、分かればすぐに魔族だと判別がつく。
フィリスさんは、姿について何も言わなかった。
彼女は、忙しいだろうから仕方ない。
「様々で統一性は無い。獣のような姿から人のような姿、龍に似た姿、幅広く存在している」
「強いのはどのくらい強い?」
「中には龍と同等の者も居る」
「はは……やばいねそれ、会いたくないなぁ」
龍と同等、つまり地力が僕とほぼ互角と考えられる。
だとしたら、単独では普通に負ける可能性がある。
むしろ、高いかもしれない。
ただ龍と言っても、飛竜クラスであれば1対1なら何とかなる。
まぁ、飛竜クラスも出て欲しくはない。
「そうそう出てこない」
「だよね。今回も出ないことを祈るかな」
風呂で10分程度寛いだ後、風呂から出てタオルで身体をササッと拭く。
普段の服にしようとして止まる。
……服の形は変えようかな。鎧は動きづらそうだから無しで、マントとポケット作ろう
全身を覆う服装にした。
長ズボンに、長袖のシャツとマント。
露出の少ない服だけど、防御力に関しては全く期待していない。
あくまで重視したのは、ポケットや木の札を持てる場所の多さ。
これなら、多くの木の札を服に仕込める。
何が起きるか分からないから、1枚でも多く札を持っておきたい。
「よし、OK」
剣を持って、小屋の中で待機する。
札を置いてる椅子とは、別の椅子に座る。
警戒と言っても、外で立ち続けるのは肉体的にも、精神的にも疲れてしまう。
だから、戦うまでの間に少しでも多く身体を休める。
ゴーレムを警戒態勢にしているから、魔族が来たらほぼ分かる。
戦闘の準備を終えた。
今できる準備はし終えた。
静かに、魔族を待ち構える。
誤字報告ありがとうございました!
昨日のうちに変えました
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