第67話 厄介事
しばらく待っていると、小屋にフィリスさんがやってきた。てっきり、監視役のオオカミが伝えに来ると思っていたから驚いた。
もしかしたら、フィリスさんが動くような事態なのかもしれない。
だとしたら、相当の事態か。
小屋の中に案内して椅子を用意する。
フィリスさんが椅子に座ったのを確認して、僕も対面するように座る。
「監視役が来る物だと思ってた」
「我が出向いた方が早いからな。厄介事だ」
「その様子だと感じた?」
「あぁ、覚えのある物だ」
フィリスさんも感じたということは、僕にだけ向けられた物ではなかったようだ。
僕に対するものでは、なかったのは良かった。
この様子なら戦闘になったとしても、1人で戦うことは避けられる。
覚えがあるのなら、前にも似たようなことがあったということだろう。
なら、対策が出来そうだ。
「覚えがある? 前にも同じことがあったの?」
「あぁ、そうだ。まぁ今回も目覚めた訳では無さそうで一安心だが」
「目覚めたわけでは無い? 眠ってる何か?」
「あぁ、そうだ。あれは魔神の力が僅かに漏れた際に生じる物だ」
「魔神の力……」
これまた、厄介そうな名前の敵だ。
創作物で出てくる物で、魔神と呼ばれている存在が弱かった話を僕は知らない。
そもそも、眠っている魔神の力が僅かに漏れ出た程度で厄介事になるくらいなら、その魔神とやらはほぼ確実に只者ではない。
……僅かに……シクみたいな膨大な力を持つ存在ってことかな。いや、シク以上か
「今必要なことは戦闘の準備だ。魔神の力によって現れる魔族共を蹴散らす必要がある」
「魔族……分かった。僕も参加って事だよね」
「その通りだ。魔族共は数日のうちに夜に紛れて現れる。警戒するのは夜だ」
「警戒は夜……昼間は魔族出てこないとか?」
「今までと同じならば現れない」
「それは有難い」
昼間に現れないのは、ありがたい。
体力が多いとはいえ、一日中戦闘なんてことになったら厳し過ぎる。
もっとも、夜間の戦闘なんてしたことが無いから不安だらけ。
「分かった」
「こちらはこちらで準備をする。夜に見つけたら各個撃破しろ」
「魔族は強い?」
「個体によって変わる、だが数が多い。こちらも準備がある、話は終わりだ」
フィリスさんは、そう言い残して去っていく。
長であるフィリスさんは、神狼族の戦闘指揮をとる必要がある。
そう長く話してる時間は、無いのだろう。
僕は単独行動で、魔族を狩ることになりそうだ。
でも、戦力の分散は確実。
……夜間なら炎は出しておいた方がいいかな
視界の確保のために、炎は出しておきたい。
照らした方が真っ暗闇よりは、戦いやすそう。
「魔族の数が多いなら……上手く囲まれないように立ち回らないとなぁ」
1人で戦うとなれば、数の不利は覚悟するべきだろう。
そうなると、囲まれるリスクが高い。
囲まれないように、立ち回る必要がある。
囲まれるのは危険だ。
「後心配なのは……人間はどう動くかな。力が漏れ出たって話なら僕らだけが狙いではなさそう」
無差別攻撃が考えられる。
それなら、人間にも被害が出てしまう。
そして、彼らが気づいているかは、現状では一切分からない。
……気づいていたら良いけど、どうだろう
監視役のオオカミが気づいていなかったから、全員気づける物では無い。
どういう条件かは分からないが、人間側のほとんどが気づいていない可能性はある。
もし、そうなら対応出来ない。
夜間な事もありどうしても、後手に回ることになる。
「伝えたいけど」
大和達に伝えようにも、彼らの居場所を知らない。
それに、僕が人里に行くと混乱を招く。
だから、僕が下手に動くのは危険。
かと言って、伝言を頼める相手もいない。
神狼族がどうかは分からないけれど、人間族と仲が良い感じはしない。
「……いや、もう1人居る。彼も居場所は分からないけど……気づいたかも」
彼は、只者ではない。
少なくとも、僕はそう思っている。
だから、気づいて動いてくれる可能性は、僕の中ではかなり高い。
というより、そうじゃないと心配が勝つ。
彼がここに来た日から、何日も経っている。
偶然にでもここか、フィリスさんの元に来てくれたら伝えられる。
僕の箱が思ったより売れて在庫が無いとか、そんな理由でも良いから。
そんなことを考えながらも、しっかりと戦闘の準備を進める。




