第66話 害意
朝は鍛錬をして、午後に魔法の制作を行う。
たまに気分で葉っぱを、色んな方法で試して新しい飲み物を作る実験を行う。
襲撃もなく、平和で順調な日々。
呑気に次は、料理でも挑もうかと考えている。
材料に今のところ、果実や魚がある。
簡単な料理なら、作れそう。
「果実は複数の種類あるし魚もある、他には……野菜類欲しいな。そこらに生えてるので食えるのないかな」
森の中には色んな種類の草が生えてるので、探せば食べれる物がありそう。
少し心配な物も、火を通せば行けそう。
僕は元々一人暮らしで、たまに自炊もしていたから料理は下手ではない。
得意でもないけど。
……あっ、調味料がないな。買えばよかった
「うーん、料理は後で考えよう。そろそろ鍛錬しないと……その前に軽く飲もう」
作っておいた葉水を、コップに注ぐ。
椅子に座って飲む。
最近のいつも通りの流れ。
この後は、鍛錬の時間……のはずだった。
……初めて感じる物だ。なんだこれ
飲んでいる最中に、妙な感覚に襲われた。
コップを机に置く。
その感覚に覚えはなく、初めて感じる。
だけど、その感覚は嫌な物だと分かった。
集中して探る。
この小屋の付近から、発せられた物ではない。
小屋どころか、恐らくこの山の外、遠い場所からだ。
正確な場所までは、分からない。
……殺意や敵意とは違う。でも似たような何か
僕は、ため息をつく。
これが何かは分からないけれど、良いことではないと分かる。
面倒くさい。
敵なら弱い相手とは思えない。
前よりは魔法なり、剣なり、戦う準備が進んでいるとはいえ、まだ心配。
……これ、僕に向けてではなく、この山に向けての可能性もあるか
「さて、どうするかな」
行動しない訳には行かない。
自分の身に危機ならば、ちゃんと万全の準備をして迎え撃ちたい。
もしこの山全体に関わる話なら、フィリスさんに報告する必要がある。
今の僕には、そのどちらかが分からない。
まぁ、僕が気づくくらいだから、フィリスさんが気付いていそう。
だけど、念の為に報告をする。
そして、報告は迅速にするべき。
椅子から立って、小屋から出る。
今は早朝だけど、小屋の付近に監視をしているオオカミはいるはず。
外に出てから見渡すけど、姿は見えない。
相変わらず、何処にいるか分からない。
監視役がバレバレでは意味が無いから、適任なオオカミを選んだのだろう。
何処にいるか分からないままでは、伝言を頼めない。
なので、フィリスさんから教わっていた呼び出す合図を素早く出す。
何かあった時のための合図。
これで、出てきてくれるはず。
でもこれを使うのは初めてなので、合っているか心配になる。
少し待つ。
すると、森の奥から白銀の毛皮を持つオオカミが現れる。周囲を見渡したあと、僕の方を見る。
「何用でしょうか」
オオカミは、淡々と喋る。
フィリスさん以外の神狼族も喋れる。
会話ができることで、素早く伝えたいことが伝えられるので有難い。
「敵意や殺意に似た物を感じた。多分、近くじゃなくてこの山の外から」
感じた物を、簡潔に伝える。
どうやら、オオカミはあれを感じていないようで、不思議そうにしている。
「敵意や殺意に似た物……貴女に向けてでしょうか?」
「うーん、それが微妙なラインなんだよね。僕に向けられているようにも、僕以外の誰かに向けられてるようにも感じる」
どちらであるか、分かれば早いのだけど、残念ながら僕には分からない。
そこが気持ち悪い。
「わかりました。すぐ長に報告します。それでは、警戒を怠らぬように」
監視役のオオカミは、地を蹴り素早く移動をする。
森の中を駆けていく。
数秒で、もう森の中に消えていった。
神狼族の中でも、足の早いオオカミなのだろうか。
あの様子なら、報告にそう時間は掛からない。
……動けるように準備はしておこう
僕も、僕で出来ることを済ませておく。
「ゴーレム戦闘準備」
待機させている3体の岩のゴーレムを、即座に戦闘出来るように待機させる。
小屋の中に置いてある魔法の札を、ポケットに入れて使えるようにしておく。
剣を、腰に携える。
「迎撃準備?」
「そうだよ、あれに気付いた?」
「とても不快な気分、今も向けて来てる」
「確かにせっかくの平和を楽しんでいたのに、とても不快な気分だ」
伝言は終わったから、後はフィリスさんがどう動くかによる。
今日は鍛錬はせず、小屋の中で連絡を待つ。