第64話 この世界の通貨
「おや、戦闘の跡が残ってますね」
商人は、小屋の周囲を見渡す。
燃え跡、削れ抉れた土が、この場で起きた戦いの激しさを物語っている。
小屋は直しているけど、小屋の周囲までは気に止めてなかった。
だから、小屋の周囲は結構酷い有様のまま、放置されている。
土は直せるけれど、草木はどうにもできない。
「噂では聞いていましたが、やはり勇者が現れたと言うのは嘘ではないか」
「あれ、商人さん? もう2ヶ月くらい経ってたのか」
小屋から商人の姿を、確認し近寄る。
今日、来るとは知らなかった。
前に来てから、もう既に2ヶ月経ってるなんて僕は思ってなかった。
小屋には、カレンダーや時計がない。
空を見れば大体の時間くらいは分かるけれど、日付に関しては全く分からない。
そもそも、僕は日付を数えるのを忘れていた。
こちらに来てから、何日経ったのだろうか。
「想定より少し早く来れましたので、来ました。お邪魔でしたか?」
「いや、君なら歓迎だよ」
敵対しない人間なら、いつでも大歓迎。
ただ、特に出せる物はない。
濾過済み(不安)の水は一応出せるけど、人間に出すのは怖い。
保証できないものは、出したくない。
「おや、それはありがたい話ですね。そちらは色々とあったようで」
商人はチラッ、と後ろの戦闘の跡を見る。
僕は、ため息をつく。
戦闘の跡を見て、色々と思い出した。
「あぁ、うん、色々とあった」
「聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「面白い話じゃないと思うけど、良いよ」
小屋の中に案内して、2ヶ月の間に小屋の付近で何が起きたか話す。
特に、隠すような内容でもない。
戦った冒険者や騎士、元英雄と勇者の話をした。
商人は、特に勇者について、興味深そうに聞いていて質問もしてきた。
「勇者様はどうでした?」
「強かったよ。特にあの聖剣の一撃で下手したら死んでたかも」
「おや、それは恐ろしい。聖剣、勇者様しか使えないと言われる伝説の剣、噂通りのようですね」
……伝説の剣かぁ。大和が完全に使いこなしてなくてよかった
伝説の剣なんて物を、知り合いが持っているのは何とも言えない気持ちになる。
「後は……あっ、魔法使いの集団も来てたよ。全員魔法使いで数は15人くらいだったかな」
「全員魔法使いですか? ……どのような魔法を使ってきました?」
「どんな? ええっと、確か1人は氷系の魔法で他の人の魔法は様々な系統だったかな。あっ、ボルケーノって魔法使ってきてた」
「ボルケーノ、炎系統の上位に属する魔法ですか。しかし、使える人は限られているはず」
……名前を出すだけですぐに分かるんだ。博識
どうやら商人は、ボルケーノという魔法を知っていたようだ。
魔法に対する知識が、豊富なのだろう。
戦闘関係なさそうな商人でも、魔法を使ったりするのだろうか。
「騎士団みたいに魔法使いの組織があるの?」
「えぇ、あります。魔法師団、戦闘系の魔法に特化した部隊、おそらく……襲撃してきた者達はその魔法師団の可能性が高いかと」
……魔法師団か。なんとも厄介そうな……うん?
おそらくと呟いた後、何か考え込むような仕草を取っていた。
その反応に若干の違和感を感じた。けれど、気の所為だろう。
……あぁいや、冒険者の可能性も一応あるのか
魔法師団以外にも冒険者が魔法使いで、陣形固めて戦いに来た可能性もある。
別に魔法師団があるからと言って、魔法使いの集団がそこに属しているとは限らない。
防御と攻撃が出来る魔法使いで固めるのも、立派な戦術と言える。
「とまぁこのくらいかな?」
「良い話を聞けました。さて、話は変わって契約の話となりますが」
「用意してあるよ」
石の箱と石の水筒を、目の前に置く。
ちまちま、休憩時間などに作っていた。
ただ魔法や鍛錬に集中していたため、新しい物は作れていない。
……数は前よりあるから充分かな
2ヶ月あったから、結構な量が作れた。
「これはこれは、有難いです」
「売れた?」
「えぇ、それはもう好評で売り切れました」
「それは良かったよ」
商人は、僕の作った道具をバックに詰め込む。
そして、自分の商品を並べ始める。
「何か買いたい物はありますか?」
「そうだね……干し肉3個と果実3つ、果実は……これとこれとこれ」
「干し肉と果実3個ですね。他には何かありますか?」
「水以外の飲み物ってある?」
「ありますよ」
商人は、乾燥した葉っぱが入った1つの瓶をバックから取り出す。
瓶の中は、乾燥した葉っぱだけだ。
……葉っぱ……お茶?
飲み物で葉っぱとなると、お茶が思いつく。
「これは?」
「これはとある葉っぱを乾燥させた物です。軽く炙り水に浸けて放置すると香ばしい香りの葉水と呼ばれる飲み物になります」
「なるほど、炙って水に浸けるね。これも買う。取り敢えず3つ」
「お買い上げありがとうございます」
これで、客に出せる物が手に入った。
大和やフィリスさんが来た時にでも出そう。
自分でも飲む予定。
美味しいと良いな。
……他には特には無いかな
今のところ、他に必要な物は思い付かない。
「他に買う物はないかな」
「おや、でしたら残りの分は通貨をお渡ししますね。少々計算します」
少し待っていると、何かが入った袋が机に置かれる。
ジャラジャラ、と大量の硬い物が入っているような音が響く。
中身は、硬貨のようだ。
これがこちらの世界の通貨ということだろう。
初めて見た。
「1銀塊と530白塊」
「銀塊と白塊?」
「価値は白塊、銀塊、黄塊の順で高くなります。そして桁で大きさと模様が変わります」
商人は、白塊を2枚並べる、
見比べていると、確かに大きさと模様が違う。
そうやって、区別しているようだ。
これが世界で、統一されている通貨らしい。
どこに行っても使えるというのは凄い話だ。
あちらの世界では、統一はされておらず、複数の通貨が存在していた。
通貨を持つのは初めてのため、商人から通貨に関する説明を受けた。
桁によって、大きさと模様が変わる。
そして、1000白塊で1銀塊という感じらしい。
遺物の30黄塊は、やはり相当高価だった。
商人は買い物が終わったあと、フィリスさんの居る方へ向かっていった。