第63話 新しい魔法の制作
「今の時代に勇者か」
「どうしたの?」
「少し嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
「然り」
……勇者が現れると何か起きるのかな
嫌な予感が僕には分からないけれど、シクには何か分かるのだろう。
僕は、勇者がこの世界でどんな扱いの存在なのかを知らない。
だけど、別の世界からわざわざ呼んだとなれば、それ相応の事が起きたか、起こす、起きる予定なのだろう。
元英雄と言われていたあの紫髪の少女が、倒したという怪物のような存在が現れたり、元々脅威とされていた存在が居るなど考えられる。
「勇者は世代に1人?」
「否、1人の時もあれば複数の時もある」
「なら大和以外にもいる可能性はあるか」
それなら、警戒するに越したことはない。
今回も、他にも勇者が居るのなら、僕を殺しにくる可能性がある。
その勇者が、僕の知り合いとも限らない。
次は、今回のようには行かないだろう。
それに勇者なら、大和と同様にチートクラスの装備を使っていると推測出来る。
それも、同じ高火力系の武器とは限らない。
……安心はできないか
「新しい魔法早く作らないとなぁ。やっぱり妨害系を増やすかな。拘束と他にも単純で厄介な魔法とか」
「思いつく限り作るといい。不要になれば捨てるか、後に改良していけば良い」
「そんな作って魔力枯れない?」
「並の魔力なら、しかし、その魔力量ならば相当数作らねば無くなりはしない」
「……確かに、なら思いつく物作っていこう」
確かに、魔力は有り余っている。
龍は魔力が多い。
その上、僕は基本的に魔力を使わないから、だいぶ余裕がある。
思いついた魔法を、教えられた魔法の法則に当てはめながら制作する。
シンプルな効果の魔法を作る。
……魔法の効果はひとまずこんな感じで式は……詠唱も試してみようかな。詠唱なら陣と違って……
頭を動かして作っていく。
陣とは作り方が違う為、詠唱作りに苦労した。
どうやら、僕は詠唱の魔法作りが苦手のようで、手こずっている。
出来た完成品をシクに見せて、使用できるか、確認してもらう。
「使えない、自殺用? 雑になってるやり直し」
遠慮なく言われる。
それから、数日かけて試していき、何個かの魔法を完成させる。
単純な効果の魔法で強力かは、実際に使ってみないと分からない。
「よし、ようやく完成した」
「妨害系のみ」
「あぁ、そうだね。妨害系のみ、小細工増やした方が戦いやすいかなって」
選択肢が多い方が、臨機応変に動ける。
妨害系だけだったのは、攻撃系と防御系で良さそうな物は思いつかなかったから。
並大抵の物なら、能力で足りている。
……あぁ、でも高火力は欲しいなぁ
この身体は強いけれど、切り札と呼べるものがない。
だから、広範囲攻撃や一点突破の高威力などの魔法は作れたら欲しい。
大和のようなとんでもない装備を身に付けている相手と、戦うなら現状だと火力不足を感じる。
……でも広範囲殲滅は魔力の消費が多くて準備も大変……魔力の消費?
「シク」
「どうした」
「魔力を余計に込めたら威力上がるんだよね」
「然り、だが、想定以上の魔力は制御が難しい」
「なら、単純な命令の物なら魔力制御なしでも一気に発動したり、扱える?」
「複雑な魔法に比べれば幾らかは」
「ならこれどう?」
ひとつ魔法が閃いた。
この攻撃魔法なら、役に立つ。
ただ、思いついただけ、作れるかは全く分からない。
何せこれは、思いついた僕でさえ、馬鹿じゃないかと思う魔法設計。
これを作るなら、別の魔法の方がいいと思う。
だけど、作れたら間違いなく強い魔法。
簡単に魔法の仕組みを作り見せる。
「使い勝手の悪い魔法、魔力消費も桁違い」
「だけど、それだけの価値はある魔法、戦闘中なら準備も整えやすい」
「これでは使えない。雑過ぎる、もっと最適な形に作り替えて」
「了解、ならこれはこうで……どう?」
「発動しない、ここ違う」
シクの教えを元に魔法の制作を始めた。
失敗を繰り返して、作り替えていく。
制作に時間がかかる。
その間も、肉体や能力の鍛錬は怠らずに続けている。
最初に比べたら、剣の腕も良くなっている気がする。気がするだけで実感は湧かない。
順調だ。
大和が来て以降、襲撃はなく時間が過ぎていく。




