第59話 聖剣の一撃
聖剣から放たれた膨大な魔力が、眩しい光の柱となり襲いかかってきた。
障壁で防ぐ。
ジリジリ、と押されていく。
すぐに、1枚目の障壁に亀裂が走る。
この障壁は、1枚でも結構頑丈なはず。
……複数展開正解か
1枚では無理と、すぐに判断して正解だった。
デタラメな魔力の一撃を防ぎきれず、障壁が次々と破壊されていく。
障壁を何重にも張ったけど、これでは防ぎきれない。
すぐに、僕の元に到達する。
光の柱は大きい、今更回避は難しい。
掠るだけでも、その部位が消し飛びそう。
……障壁でだいぶ威力の減衰は起きているはず
能力を切り替えて、身体強化に変更する。
そして、身体を強化する。
肉体強度の強化を行う。
その上で左半身を前に出して、左手を前に突き出す。
そして、目を閉じて目を保護する。
障壁が全て砕かれた。
次の瞬間、左手が光の柱に包まれる。
痛みよりも、先に身体が光の柱に包み込まれた。
皮膚が焼かれるような痛みを、全身に感じる。
光に包まれたのは、ほんの一瞬のことだった。
「ぐっ……ぅ……なんと……か耐えたか」
ボロボロになりながらも、耐えきった。
……肉体強度を上げてなかったら、左半身は焼き切られてたかなぁ
身体強化をして正解だった。
右側の服の下に、仕込んでいた木の札で傷を癒す。
左半身を盾にしたことで、右側の負傷は比較的少なく木の札を破壊されずに済んだ。
左半身も主に皮膚と表面に近い肉が焼けたくらいで、深い傷はなかった。
回復が完了する。
「聖剣の一撃を耐えた!? それに治療の魔法を扱う龍なんて……」
「直撃したはず、あれを耐えるなんて」
後ろで怯えていた2人が、驚きの声を上げる。
確かに僕も何もしないで、あれを食らっていたら死んでいた。
それに木の札に込めた魔法がなければ、戦闘続行も叶わなかった。
……全く、僕は運がいい
少ないながらも、強者との戦闘経験が生きた。
魔法の準備が功を奏した。
本当に、運が良い。
もっと早く彼が来ていたら、確実に今の一撃で死んでいただろう。
今の僕だから、ギリギリで耐えれた。
魔法を教えてくれたシクに感謝しないと。
チラッ、と後ろを見る。
小屋の一部が見事に抉れている。
まぁあの一撃受けて一部損傷程度で済んでいるのは奇跡だろう。
……あの辺は……椅子置いてたか
物の配置を思い出す。
抉られた付近は、記憶が正しければ確か椅子を置いていたところ。
椅子ならば良い。作り方を覚えているし、素材は木だからまた作ればいい。
僕は、攻撃の構えを取る。
あの攻撃は、そう乱発できないと考えられる。
乱発できるなら、最初から使っているはず。
おそらく切札のような物。
なら、今がチャンス。
男を見る。
動きを見て、一撃を叩き込む。
小屋の仇を含めて、今までよりも力を込める。
力を込めないと、鎧を貫けない。
……なんだ?
男の動きがおかしい。
何故か、顔を逸らしている。
顔だけだ、身体はこちらを向けている。
見るからに隙だらけ。
無防備を装ってのカウンター狙いか。
……にしては分かりやすいか
戦いの中で、やる行動ではない。
敵が目の前にいるのに視線を外すというのは、危険度の高い行為だ。
策がないなら馬鹿だ。
あんな力を持つ人間が、そんな馬鹿とは思えない。
警戒するに、越したことはない。
カウンター読みで防御の能力に、切り替える。
「み、見えてるから隠した方が……」
「見えてる? 何を言ってる」
「か、身体……ふ、服が」
「身体? あぁ……」
僕は、自分の身体を見下ろす。
言っていることが分かった。
服が、ボロボロになっている。
特に左半身は、ほぼ完全に消失していた。
それもそのはず、左半身は威力減衰していたとは言え、聖剣の一撃を受けているのだ。
そりゃ、服も無事な訳ない。
服以外に隠す物は、持っていないから見えている。
「ただ片胸が見えているだけの話、戦いの中で気にするものか?」
「女性の裸を見てしまうのは」
「馬鹿か」
地を蹴り接近して、拳を叩き込む。
紳士のようだけど、関係ない。
今は殺し合いの途中、隙を見せてタダで済ませるわけがない。
「硬い」
拳は、鎧に直撃した。
しかし、ビクともしないほどに硬い。
今回は、ちゃんと力込めて打った。
これでは、鎧を突破するのは難しそうだ。
飛び退く。
どうにか、他の手を考えないとまずい。
「お前は恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいけど? でも命の取り合いの中で羞恥心なんて優先するわけない」
そんな物を優先して戦えるほど余裕はない。
どんな馬鹿なのかと、男の顔を見る。
そういえば、この男の顔を見た記憶がない。
どんな、あほ面だろうか。
……は? なんで
僕は、男の顔を見て動揺した。
その顔には見覚えがあった。
構えを解く。
「なんだ? どうした」
遺物の力を使って、服の形を戻す。
少し時間はかかったけれど、完全に元に戻る。
有り得ないとは言えない。けれど、あり得るとは考えすらしてなかったことに遭遇した。
戦いどころじゃない。
あぁ、最悪な再会だ。