第55話 シクのアドバイス
「よし、補充完了」
木の札を作り終えた。
同じ事の繰り返しのため、だいぶ慣れていた。
一応、シクに確認して貰っている。
僕は経験上、慣れてきた時が1番、ミスしやすいと思っている。
それに、もし失敗していて、必要な時に使えなかったら作った意味がない。
治療系の魔法が必要な時に使えないのは、ほぼ死を意味する事だ。
「問題なし、次の予定は?」
「次は新しい魔法かな」
「何を作る予定で?」
「それが特に思いついてないんだよね……うーん、何がいいかな?」
広範囲煙幕の魔法は、既に完成している。
一応、予備も作ってある。
ただあれは大軍用の魔法であり、単独だった少女相手には使わなかった。
新しく、作りたいものが思いつかない。
元々幅広く使える能力が備わってるせいか、パッと足りない、必要なものが出てこない。
……うーん、必要な魔法ってなんだろう。大体能力でどうにかなる
能力の方は使い捨てでもなければ、魔力も使わないので魔法より使い勝手が良い。
だから、能力と被るような魔法は作りたくない。
現状、作る必要が無い。
「あの娘との戦いで何も得ていないと」
「手厳しいこと言うなぁ……正直その通りだけども」
厳密には、何も得てないではない。
ただ戦いで思ったのは、力量不足だ。
基本の実力が龍の力依存過ぎることが、接戦になった原因と見ている。
身体能力は元々備わっていた物でしかなく、戦術や技術などの後天的に身につけられる物は、ほとんど保有していない。
だから、技術の高い少女を、早々に押し切ることが出来なかった。
この辺は魔法で補うと言うよりは、レベルを上げてステータスを伸ばす物だと思っている。
魔法を作るなら、他で必要な物。
……今は治療系1つと妨害系1つの2つだけ
戦いを思い出す。
初手の一撃は、油断から起きたこと。
油断したから切られた。
油断さえしていなければ、少女のあの速度なら問題なく対応できた。
……龍形態ならあれも問題なかったのかなぁ
龍形態は人型よりも硬い。
防ぎ切れたかは分からないが、人型よりは浅い傷で済んだだろう。
単純な戦闘能力も、龍形態の方が高い。
「うーん、あの時、龍形態になってたら……もう少し余裕持てたかなぁ」
「確かに本来の姿の方が力は使える。しかし、扱えぬ力は枷になる」
「扱えない力? 慣れてはないけど別に使えないわけじゃないよ?」
僕は確かに、龍形態の動きに慣れていない。
ただ、それだけで飛竜の時も老人の時も、龍の力を使えて戦えていた。
扱えないわけじゃない。
「扱いきれていない。どれだけ強くともただ振るうだけの力ではその命を脅かす」
「力が命をおびやかす?」
「然り」
確かに僕は、まだ使い方が完璧とは言えない。
しかし、強い力は強いだけでも良いと思っている。
炎の自在な操作などは考えているけれど、炎は老人相手に通じなかったから。
もしも、今以上の力があれば斬られず押し切れた。
シクの命をおびやかすが分からない。
強大な力を振るって自分の命が?
少し考える。
……脅かすなら……自爆かな。自爆なら確かに危険
制御出来ずに、自爆するならわかる。
確かに、そう考えると強い力ほど危険。
それなら、力を上手く扱うのは大事という話もよく理解できる。
「何となく分かったかも」
「完全を目指さず不完全もまた力」
「さっきと逆のこと言ってない?」
「先程は龍形、今回はその姿」
シクは、僕を指差す。
わざわざ、龍形態と分けて話したという事は、その姿とは人型、擬態時の姿の事だろう。
「この姿?」
「然り、ヒントは渡した。後は己で考えよ」
「わ、分かった」
少し考える。
でも、言葉の意味が分からない。
この姿を指して、完全を目指さずというのは一体なんだろうか?
この姿で鍛錬して強くなることは、違うという意味だろうか?
いや、それならシクは鍛錬中に無意味ってズバッと言いそうだ。
本当に分からない。
しかし、シクがわざわざ伝えたということは、何か強化に必要なピースなのだろう。
暫く考えるけれど、答えは出ない。
仕方ない、他のことを進めよう。
今は分からずとも毎日考え続けたら、いずれ答えに辿り着くかもしれない。
それまでは、他のやり方で強くなる。
毎日、鍛錬と魔法制作、シクのヒントを元に新しいやり方を考える。