表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/139

第53話 激戦の勝利

 刀と剣がぶつかり合う音が、周囲に響く。

 打ち合う度に、早く重くなっていく。

 その音は時間にして、3分程度続いていた。

 体感では、普段の数倍の時間にも感じるほどに、集中していた。

 周囲の音は一切聞こえず、研ぎ澄まされた感覚が捉えるのは、目の前の少女の細かな身体の動き、呼吸、溢れる殺意のみ。

 一瞬の隙が命取りになると思ってしまうほどに、早く激しく恐ろしい戦い。

 僕も少女も全力、互いに全く引かない。

 皮膚を肉を切られる痛みですら、加速していく戦いの速度に追いつかない。

 思考する前に動く。

 身に宿す獣の本能が、敵に牙を剥く。

 刃をぶつけ合う。

 ジリジリ、と押し合う。

 両腕と足に力を込め、地面を強く踏みしめ押し込む。


 ……押し切れ!


 僕は、さらに力を込めて刀を振り切った。

 剣が大きく弾かれ、宙を舞う。

 舞った剣は、少し離れた地面に突き刺さる。

 今の少女は、武器を失った。

 迷いなく追撃を行う。

 振り切った刀の向きを変えて、振り切る。

 彼女にはもう防御の術もないのか、この一撃は阻まれることはなかった。

 彼女の防具は両断されて、胴体に斜めの大きな切り傷が刻まれた。

 深い切り傷から大量の血を流し、少女は力無く仰向けに倒れる。

 僕はすぐに剣が突き刺さった場所に向かい、引き抜いて剣を奪取する。

 見た限り、少女は剣を1本しか持っていない。

 これで、剣を使った戦闘はできない。

 接近しつつ、武器を構える。

 まだ油断はできない。


「鈍ったかなぁ」


 少女は、空を見て呟く。

 起き上がる様子は無く、何かをしようとする様子すらも無い。

 少女が纏っていた膨大な魔力が消失していき、元の魔力量より少なくなる。


 ……魔力が消えた? いや、元に戻った?


 おそらく、奥の手の効果が切れたのだろう。

 どうやら、魔法か何かで一時的に魔力量を引き上げていたようだ。

 だいぶ厄介な力だ。


「殺すなり食らうなり好きにして」


 僕の方を見ずに言う。

 死を覚悟している。

 負けたのだから死ぬのは当たり前、それがこの世界の常識なのだろうか。

 だとしたら、やっぱりどうしても、僕はこの世界は好きじゃない。


「殺す気はない。僕に人を殺す趣味はない」

「理解ができない。殺しに来た者に情けをかける意味なんて何もない」

「そんな物僕の勝手だろう。意味も価値も僕が決める」


 甘いと、でも言われるのだろうか。

 そんなことは知っている。

 分かっている。

 分かっているんだよ。そんな事は。


「少し傷を癒す」


 残っていた木の札を使い、治療をする。

 もっとも完全には、傷を治さない。

 これでまた戦闘になったら、意味がない。

 ただ、後でしっかり治療したら、傷が残らないであろう程度の傷まで回復させた。

 女性の身体に大きな傷が残るのは忍びない。


「動けるだろう、さっさと立ち去れ」


 少女はゆっくりと立ち上がり、何か言いたげにこちらを見る。

 僕は質問などしないで、ジッと少女を見る。


「その子供のような甘さは身を滅ぼす」


 それだけ言って、少女は川を下っていく。

 遠くに行くまで、僕は動かない。

 不意打ちの警戒はする。

 充分離れたら小屋に戻る


 ……甘いだけで居る気はない


 小屋の中に入ると、シクが立っていた。

 僕は、椅子に深く座る。

 身体が溶けているかのように、力無くダラァと椅子に寄りかかる。

 疲れた。すごい疲れた。

 今日は、もう休みたい。


「戦利品か」

「うん? あぁ、そうだね」


 少女の持っていた剣。

 戦闘になることを恐れて、返さなかった。

 妖刀と打ち合い、刃こぼれ1つ起きていない彼女の剣。

 もしかしたらこれも、妖刀のような特殊な剣なのかもしれない。


 ……武器が増えるなぁ。あぁ、そうだ刀の扱い慣れておこうかな


 これからは、今回のように刀を使う戦闘があるかもしれない。

 今回は、龍の身体能力でゴリ押し突破という強引なやり方で、何とか勝てたけれど、本来なら武器を扱う技量が必要。

 しかし、それは一朝一夕では身につかない。

 慣れるには、長い鍛錬が要る。


「これも妖刀みたいな凄い剣?」

「否、それはそこらにあるただの剣、特殊な力など宿っていない」

「本当?」

「あの力はあの娘の魔力依存」

「普通の剣でも妖刀と渡り合えるのか」


 ……いや、あの子がとんでもないのかな


 商人やフィリスさんも、妖刀のような武器は特殊だと言っていた。

 だから、普通の武器とは違うのは間違いない。

 ならば、考えられるのは、少女の魔力がやばい代物である事だ。


「その器には大して力は宿っていない」

「あぁ、確かにそんなこと言ってたね。力を注いでもらうことは?」

「注いだとてその器では耐えられまい」

「強い力には相応の器じゃないとダメなんだ?」

「然り」


 なら、仕方がない。

 今の僕には、シクの力を注げるほどの相応の器を用意できない。

 しばらくは、この刀で鍛錬になりそう。


 ……刀と剣ってどっちの方がいいんだろう。確か刀の方が扱いづらいって聞いた気がする


 のんびり休憩しながら、剣か、刀か、どちらで鍛錬するかを考える。

 できれば扱いやすい方が良い。

 いつまた襲撃があるか分からない以上、慣れるのが早い方が良い。


 今日は本来の予定を変えて、一日休みにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ