第52話 制限解除
切り替えた能力は、僕が使いたくなかった能力。
それは『毒』
毒を体内で、生成して操ることができる力。
現在、僕は2種の毒を生成できる。
それぞれ特徴がある毒で、僕が選ぶのは命を奪う危険が少ない方。
……毒生成麻痺毒
この毒の原理は知らないけれど、対象の身体を麻痺らせて動きを止める。
これなら、命を奪うことは少ない。
もっとも麻痺は、呼吸や心臓にも影響が出る。散布する量を間違えれば、殺してしまう。
落ち着いて、量に注意する。
少なければ効果は薄く、多過ぎれば命を奪う。
体内で毒を生成して、体外に分泌する。
口から息と共に出し、皮膚から体外に放出していく。
無臭無色の毒、空気に混ざり、内部に浸透する。
……悟られないようにしないと
僕は、構える。
何かをしていると勘づかれると、先に対策される恐れがある。
だから、悟られないように戦う。
剣の攻撃を避けて、蹴りを繰り出す。
毒を十分に散布したあとに、能力を身体強化に戻して戦いを続ける。
少女の速度は、上がっていく。
避けきれず服を切られ浅い傷を負う。軽く血が飛ぶ。
軽々と、この身体の皮膚を切ってくる。
並の攻撃ならビクともしないのに
とんでもない攻撃だ。
一撃一撃が重い。
……体力無尽蔵か?
どのくらいの時間かは分からないけれど、体感結構な時間戦闘をしてる。
それも早い速度の戦闘。
なのに、疲れていない。
それどころか、早くなっていく。
だけど、それもそろそろ終わり。
戦っている位置は、僕が毒を散布した範囲。
その範囲でずっと戦っている以上、毒を取り込まないことは不可能。
少女は鼻や口を塞いでいない、呼吸も聞こえる。
激しく動けば動く程、より浸透が早くなる。
……そろそろ服も限界そう……まぁ上半身程度ならそこまで気にはならないけど
避けきれずに、食らう量が増えてきた。
速度はこちらの方が早いはずなのに、避けきれない。
傷は浅いから、そこまで気にならないけれど、服がボロボロだ。
ボロ衣の時以上に、肌が露出している。
ただの服ではないから後で元に戻せるだろう。
ただ、戦いの中では難しい。
少女が剣を振るった、
僕は、剣を避けて反撃。
その反撃を避けた少女が剣を……振るえなかった。
少女は、剣を落とす。
ようやく、麻痺毒が効いてきたようだ。
「こ……れは……毒」
「ようやく効いてきたか」
毒を散布してから、既に数分は経っている。
量が足りなかったのか、耐性が高いのか。
ここまで時間かかると効かないのか、と不安も僅かにあった。
何は、ともあれ効いて良かった。
これで、ようやく戦いが終わる。
「毒……麻痺毒……」
「結構強力な毒だからそのうち、身体が動かなくなるはず、君はもう戦えない」
「この……程度……」
ゆっくりと起き上がる。
効果が出始めたばかりとはいえど、身体の全身が痺れているはずだ。
「なっ」
「やむを……得ない」
嫌な予感がした。
その瞬間に、素早く蹴りを繰り出す。
やらせたらダメだ。
そう本能が、訴えかけてきた。
だから、その前に叩く!
「解除」
「くっ……」
蹴りは、避けられる。
追撃はせずに、大きく飛び退く。
無理だった。
手遅れだった。
許してしまった。
「すぐに終わらせる」
「奥の手か。やばいな」
先程の数倍は、ある魔力が溢れ出している。
魔力だけじゃない、雰囲気も全てが違う。
本気モード、いや、奥の手を切った感じだろう。
毒の効果も怪しいレベル。
……龍形態に……
僕は、龍形態になろうとする。
少女は、剣を振るう。
膨大な魔力を纏う剣。
咄嗟に、上半身を反らして避ける。
髪の毛が軽く切れた。
僕が居たところは、飛び退いていたことで少女とは距離がある。
本来の剣のリーチ外。
……魔力によるリーチ拡張!?
膨大な魔力を纏う事で、剣のリーチが伸びた。
今までのリーチとは、段違いの長さ。
次の攻撃が来る。
横に飛んで避ける。
こっちは、炎や物体操作による攻撃はできても、多分軽々とあしらわれる。
それに戦闘のメイン戦術は近接戦闘、接近しないとやれない。
決定打になるのも、近接攻撃。
……まだ防御があるけど防げるかどうか
防御の力に頼っても、もしも、防ぎきれなければ切り裂かれる。
正直、あれは防げる自信がない。
炎に切り替えて、デタラメに炎を放つ。
質より量で攻める。
少女が素早く剣を振るうと、炎が全て両断される。
……危なっ、やばい
剣の攻撃を避ける。
攻撃の速度が先程よりも早い。
これでは、回避に集中していないと、避けられない気がする。
反撃どころか、接近の隙がない。
……炎を捌くってことは案外防御面は脆い?
牽制に炎を放ち続ける。
炎への対処に、時間が取られている間に考える。
どうすればいいか。
毒の効果は薄いか、無い。
毒の量を増やしたら効果は出るかもしれないけど、その間、僕は他の能力を使えない。
物体操作はゴーレムでは、もはや時間稼ぎにもならない、土壁も拘束もほぼ効果はなさそう。
防御の力では防げるか、分からない。
試したいけれど、試す暇があるか分からない。
攻撃を避けて、様子を見る。
「使うと良い」
小屋の方から、抜き身の刀が飛んでくる。
柄を掴む。
小屋の奥で、眠っていた妖刀だ。
投げたのはシク。
不気味な雰囲気が漂っている。
……これなら行ける
少女の剣の軌道に合わせて、刀を振るう。
ジリジリ、と押し合う。
流石シクの力が宿った妖刀、少女のあの剣と押し合えている。
これなら、やりようがある。
身体強化に切り替えて、切り合う。
刀の技術なんてないから、力任せに振るう。
技術はなくても身体能力だけなら、僕の方が上。
あちらが奥の手を切った今でも、僕の方が早い。
技量の違いで押されてはいた。けれど、力で対抗できるならまだ勝ち目はある。
互角に渡り合う。
ジリジリと押し合い、力を込めて弾く。
そして、素早く接近をする。
距離があるとはいえ、この距離なら数秒と要らない。
近距離なら、リーチが長くても関係ない。
切り合う。
技量の差は、身体能力で補う。
経験の差も、身体能力で補う。
攻撃が掠り、傷口から血が滲み出す。
斬り合いながら、札を使い傷を治す。
相当、酷い傷でもなければ治る。
まだ予備の札が、数枚残ってる今が攻めどき。
激しい攻撃の応酬が、繰り広げられる。