第46話 威圧
「警告だ」
彼らを睨みつける。
彼らは、ビクッと身を震わせる。
1人以外は怯えている様子。
「同じ目に遭いたくなければ今すぐ失せろ」
1人蹴り飛ばしたことを、脅しに利用する。
逃げるなら追わない。
戦わずに済むならそれが1番。
蹴りも鎧越しで加減もしたから、転がってるけど、死んではいないはず。
連れて退いても止めはしない。
だけど、警告で彼らが止まらないならやるしかない。
……ここにいるので全員か。隠れてはいないか
人数は吹き飛ばした奴を除いて5人。
合計6人、連携に丁度いいくらいの人数なのだろう。
全員同じような全身鎧を身につけ、剣を携えている。
鎧に特徴的なマークが見えることから、そういう組織の集団なのだろうか。
昔、何かの本で見たことがある騎士のような格好をしている。
こちらにも、騎士という職があるのだろう。
「退く訳がないだろ!」
「行くぞお前たち!」
「「うぉぉぉ!」」
「死ね! 邪龍」
リーダー格っぽい人物が先頭で突っ込んできた。
大声を上げ、剣を天高く振り上げて僕に襲いかかる。
両手で剣を振り上げたその姿は、隙だらけに見える。けれど、警戒して下手には突っ込まない
構えて様子を見る。
……これは無防備と思わせての誘いかな
邪龍退治に集められたメンバー。
なら、それほどの戦闘経験のある人々のはず。
無防備に見えるのは、誘いで反撃を備えていると考えるのが自然だろう。
素早く他のメンバーの動きを確認する。
4人は二手に別れ、僕を囲もうと動いている。
……囲まれる。どうするか
どこから対処するか悩む。
真正面から来てる1人を対処しても、4人に同時にこられたら防ぎ切るのは難しい。
僕では捌くことができるか、分からない。
なら左右のどちらか2人ずつ対処か。
いや、2人に食い止められたら、無防備な背中を晒すことになる。
……時間ない、避けて叩く
覚悟を決める。
振り下ろされた剣の剣身を叩き、軌道を逸らす。
落ち着いて動ける剣速。
剣を逸らされ大きく体勢を崩した相手の鎧に、軽く拳を叩き込む。
メキッと音を立てて鎧はへこみ、そのままリーダー格っぽい男は吹き飛ぶ。
……あれ、何もない
僕の体に、何も起きていない。
何かしら剣に仕込んでいる物だと思っていたから、拍子抜けだ。
考え過ぎだった。
これで2人目戦闘不能、残りは4人。
「副隊長がやられた」
「まじかよ」
「嘘だろ。どうすんだよこれ」
「4人で行くしかない」
4人は、凄い動揺している。
今回は彼らの言葉を聞いていた。
その中で、副隊長という言葉が聞こえた。
……今の副隊長か、だから指示を……てことは最初に蹴ったの隊長だったのかな
今のが副隊長なら、最初に蹴り飛ばして伸びてるのが隊長という事だろう。
隊長が動ける状態で、副隊長がまっさきに指示を出すとは思えない。
偏見ではあるけど、騎士なんて縦社会だろう。
想定はしていないけれど、最初に隊長と副隊長の2人を倒せたのは大きい。
実力社会でもありそうな騎士なら、2人はこの中では強い人間だろう。
4人を観察する。
彼らは見るからに、戦意喪失しかけている。
そのまま、戦意喪失させたい。
……あっ、確か魔力って他人も認識できるはず
シク先生の講座を思い出す。
他人の魔力も認識できるし、逆に自分の認識させることができると。
それを利用することを考えついた。
先に6人の魔力量を確認していく。
人の魔力量の平均値が分からないけど、6人の中では隊長と副隊長の魔力量が高いのが分かる。
4人も個々でバラツキがある。
……少ない感じはしないから4人も平均よりは高そう。びっくりさせよ
自分の魔力を引き出す。
魔力量を見て確信した。
僕の魔力量は彼らに優っている、それも比較にならないレベルで。
ならこれは戦意を失いかけてる相手の心を折るに、ちょうど良い。
雑に自分の持つ魔力を放つ。
膨大な魔力が周囲を包み込む。
膨大な魔力を、4人は認識した。
4人の反応に少しの違いはあったけれど怯え恐怖の表情をしている。
2人は剣を落とした。
2人は剣は落としていないけれど、差程変わらない反応を見せている。
「失せろ。ここから去れば追わん。これ以上貴様ら雑魚に時間を取られたくはない」
もう一度、睨みつけて強めの口調で言い放つ。
既に実力差は見せた。
魔力の差を理解させて、強めの口調で威圧をする。
これなら威圧としては十分なはず。
さっさと、撤退してくれればいい。
本当に追う気も殺す気もない。
「なんだ、死にたいか」
4人に、更に言葉で圧をかけた。
このまま、ここに突っ立っていられるのは迷惑だ。
来るならさっさとかかって来て欲しい。
そしたら、全員を倒した後に集落付近に放り投げておけるから。
「う、うわぁぁぁ」
1人が叫びながら、突っ込んできた。見るからにパニックになっている。
剣を砕いて、軽く叩いて地面に転がす。
倒れた騎士は、気絶したようで動かない。
「来るか?」
残り3人に聞く。
戦意を完全に失ったようで、1人が首を横に振る。
「なら失せろ」
騎士たちは武器を仕舞い、急いで転がっている2人の元に向かっていく。
こんな状況でも、救出して離脱しようという意思は素晴らしい。
「こいつも連れていけ」
小屋の方へ歩く。
あれだけ圧をかけたのだから、近くにいては近寄れないだろう。
ちらっと一瞥すると3人は、1人ずつ抱えて森の中に消えていくのが見えた。
魔力を戻して、小屋の中に入る。