第43話 強くなるためには
翌日の早朝
目を覚まし、朝の支度を済ませる。
水を顔にかけて眠気を覚ませて、ちゃんと思考できるようにしておく。
「強くなるためには……筋トレかな? でも擬態の身体で鍛えても意味ないか?」
本来の姿は、龍の姿の方。
こっちは擬態、簡単に言えば偽りの姿。
こちらの姿で筋トレをしても、意味があるのかは分からない。
ならば、龍の姿で筋トレかと思っても、龍の姿で筋トレって何をすればいいか分からない。
人の姿と違い過ぎる。
その上、巨体だから見つかりやすい。
強くなる前に、バレては意味がない。
「人の姿で……まぁ筋トレはやるかぁ」
この身体も、本体であることには間違いない。
効果を、得られる可能性はある。
強くなれそうなら、試す価値がある。
「あとはあの力か」
目を切り替えることで行使できる力。
複数の種類があり、汎用性が高い物もある。
しかし、限界が存在する。
物体操作は物体を操るだけで、老人のような強者には効果がなかった。
持っている武器に使うにしても、前回のような魔眼殺しなる力を持っていたら同じことになる。
ゴーレムを作れるけど、扱える数は3体、心許ない。
炎も軽々と斬られた。
「使いまくって練度をあげよう」
炎を出して操る。
今までの使い方は、手元で火力を高めて放つ。
分割したりブレス状にしたりと少しは工夫はしたけれど、多分足りない。
相手は、魔法を使ってくる。
見た限りでも拘束系の魔法、強化付与系の魔法、中距離攻撃系の魔法。
他にも、魔法はあるだろう。
多少の工夫じゃ対処は難しい。
考えられる方法をやる。
「なんでもいい」
……龍で考えるな。僕は人だ
必要なのは、龍の戦い方ではなく人の戦い方。
圧倒的な強者の龍としての戦いではない、弱者としての戦い。
貪欲に、強くなる人のやり方が良い。
炎を使った鍛錬や物体操作の鍛錬を行う。
戦いの師匠なんて居ないから、手探りで良さそうな物を実行する。
誰かに教えを乞えないのが、厳しい。
戦いなんて本当に知らない、僕は格闘技もやっていなかった。
すぐに、行き詰まりそうに感じる。
物体操作や炎の鍛錬をしつつ筋トレを挟む。
岩を持ち上げてのスクワット、ゴーレムを乗せての腕立て伏せを行う。
この身体は、元が強いので人並みの負荷ではおそらく足りない。
それから、1週間手探りで鍛錬を続けた。
1週間では、強くなった気はしない。
ただ能力の扱いは1週間前より上手くなった気がする。
炎は放ったあとも、少しの間、軌道などの動きを操れるようになった。
物体操作の方は少し命令しやすくなった気がする、気がする程度の変化である。
今日も、同じように鍛錬を続ける。
左目が完治したから、左目で能力を使う。
スポーツウェアの形に無貌を変える。
動きやすい格好にした方が運動がしやすい。
動きやすい格好で、思いついたのがこのスポーツウェアだった。
身体にピッタリと合うように調整してある。
「ゴーレム、来い」
ゴーレムとの組手を始めた。
簡単に戦闘しろと言う命令を、出しておいたゴーレムと戦う。
こっちは、身体強化も能力もなしでの勝負。
万が一に備えて防御の力を使えるようにしているけど、組手中は使わない。
力と技術の勝負。
ゴーレムの攻撃を躱して、蹴りを叩き込む。
蹴った部分が大きく砕ける。
しかし、倒れる前に拳を振るってくる。
拳を当てて砕く。
「次は回避訓練、よし来い」
ゴーレムを修復する。
破壊したら、修復で物体操作の鍛錬にもなる。
ゴーレムの攻撃を躱し続ける。
こちらから攻撃も反撃もせずに、ひたすら攻撃を避ける鍛錬。
ゴーレムの攻撃は単調だけど、そこそこ早い。
油断したら食らう。
だから、ちょうどいい。
動きを見極めて、余裕を持って避ける。
1時間近く続ける。
ゴーレムは疲れないし、僕も体力が有り余っていて1時間程度なら余裕。
1時間の鍛錬が終わり休憩を挟む。
体力に余裕はあるけど、こまめな休憩は大事。
軽く服をはだけさせて汗をタオルで拭く。
「同じことを何度も」
休憩中に、少女が話しかけてきた。
暇なのか、時々鍛錬をしているところを見に来る。
特にアドバイスが貰えるわけでもないけど。
「鍛錬ってそういうものだからね。強くなるためには仕方ない」
同じことを何度も繰り返す。
そういう物なのだ。
やり続けて強くなる。
継続は力なり、それが結局一番の近道。
気長にやるしかない。
強くなるというのはそういう事だ。
「魔力を使えばよかろう」
「魔力?」
「知らないと?」
「知らないな」
呆れたと言わんばかりの表情でこちらを見る。
知らないものは知らない。
魔力って魔法使う時に使うあれでしょ?
えっ、あるの?
「魔法を使う時に消費するあれ?」
「そう、魔力を引っ込めているから何かと思えば、まさか知らないと……」
「引っ込めてる?」
「魔力が見えない。龍は膨大な魔力を保有している」
「なるほど、それは使える」
魔力が分からないけれど、持っているなら感覚が掴めるはず。
集中して魔力を操る手を探す。
引っ込めているのなら魔力は僕の中にある。
……身体を漂ってるこれか
魔力を見つけた。
見つけて始めて理解した。
そのまま、魔力を体外に放出する。
ようやく、魔力を認識した。
確かに、膨大な魔力を僕は保有している。
これを使えるなら使った方が断然強い。
「龍も魔法とか使える?」
「使う者は見ないが魔力を持つのだから使える」
「そっかぁ」
良い情報を貰った。
魔法が使えるなら、前提が一気に変わる。
魔法を習得する。
他の龍が使わないだけで、使えるなら使う以外の選択はない。
間違いなく、強くなれる。
「……ねぇ、魔法の使い方知ってる?」
「知っている。主はなぜそこまで強くなりたい」
「死にたくないから、強くなれば殺されずに済む」
「既に殺せる者は多くなかろう」
「でも居るから」
蛇龍は強い。
確かに少女の言う通り、僕に勝てる相手はこの世界でそう多くないだろう。
だけど、負ける可能性があるから強くなりたい。
「少しならば教えよう」
「ありがとう」