第39話 買い物
「様々な物を揃えていますよ」
商人は肩がけしている小型のバックから、布を取りだして、丁寧に床に敷く。
そして、バックから色々な物を取り出して、その布の上に並べ始める。
商品を傷付けないように、丁寧に置いている。
僕は、下手に触れないように少し距離を取る。商品を触れて壊したらやばい。
……あのバックも遺物なのかな
バックの大きさでは、入らないような商品も次々と取り出している。
おそらくは、容量拡張関連の力を持つ遺物。
この様子だと、他にも遺物を保有していそう。
「今持っている商品の一部です。ここに無い物で欲しい物があれば言ってください。バックの中にあるかもしれませんので」
結構な量が置かれているけど、まだバックの中に入っているらしい。
どれだけの商品を、持ち運んでいるのやら。
本当に、様々なものを売っている。
剣や槍と言った武器、盾、防具類などの特定の人への商品から、瓶詰めされた果実類や乾物などの保存が効きそうな食料。
粉末状の何か、服類や獣の皮、様々な道具類、幾つかの鉱石類が並べられている。
……保存食だ。保存用に瓶も欲しいな
一番最初に目に付いたのは、食料類、瓶詰めされた果実と干し肉。
見るからに、保存の効きそうな食料。
今現在、食料を保存する方法がなく、数日置きに調達しているからありがたい。
後、そろそろ肉類が食べたい。
「干し肉と果実が入った瓶を……1つずつと空の瓶を2つほど欲しい」
「干し肉と果実ですね。果実は複数の種類がありますがどれが良いですか?」
「うーん、ではこれを」
瓶詰めされている果実は見覚えのない物ばかり、この辺では取れない果実なのだろう。
味が分からない。
だからとりあえず、実が小さくて量が入っている果実を選択する。
保存食2種類あれば、しばらくは何とかなる。
「交換する物は何がありますか?」
「持ってくる」
妖刀と作った石の箱を持ってくる。
石の箱は、ともかく妖刀なら交換可能なはず。
流石に妖刀だけでは、足りないなんて事にはならないと思いたい。
商人の前に、妖刀を出す。
「妖刀を出すよ」
「おや、妖刀ですか。妖刀を出すのなら他にも商品買えますよ」
「それなら……サバイバル用の道具が欲しい。テントや寝具、雨具とナイフ……後、タオルを3枚、あるかな?」
「少々お待ちを」
商人はバックの中を漁って、僕が言った道具を次々と取り出す。
「今持っているのはこの辺りになりますがどうでしょう。手に取って確認しても大丈夫ですよ」
サバイバル用の道具に触れる機会はなかったため、一目見ても道具の善し悪しは分からない。
手に取って確認する。
道具類は、損傷は見受けられない。
……これなら大丈夫そう
「買う」
「はい、分かりました」
これで僕は、サバイバル用の道具一式と保存食が手に入った。
長期間の移動に、必要な物が揃った。
山を出る前に、得られたのは大きい。
……今欲しいのはこのくらいかな。武器や防具は要らないし後は……なにかの材料に使えそうな鉱石類か
様々な鉱石が並んでいる。
形や色が違うのは勿論、大きさにもバラツキがある。
鉱石の知識なんて僕は持ってないから、鉱石類を見ても何も分からない。
「他にはないかな」
「おや、そうですか。その箱はなんですか?」
「箱? あぁこれか」
妖刀と一緒に持ってきた石の箱を、商人は気になったようだ。
商人に1つ渡す。
「単純な石の箱、蓋がピッタリだから空気が入りづらいし石だからそこそこ頑丈」
「この大きさなら、色々と入れられますね」
「意外と入る。僕は果実や魚を保管するのに使ってる。何個かあるけどこれ交換に使える?」
「これは……ふむ、集落で売れそうですね。他には道具はありますか?」
「それ以外だと水筒型……水入れるための容器があるくらいかな」
「ほほう、ぜひ見せて貰えませんか?」
石の水筒も見せる。
水筒は売る用で作ったわけではないけれど、案外この反応なら売れるかもしれない。
「蓋に仕組みがあってこうすると開く、逆にこうしておけば逆さにしても零れない」
目の前で使い方を披露する。
「なるほど、面白い仕組みですね」
「水入れの容器ってどんなのがある?」
この世界でペットボトルや同じような水筒が普及していたら、売るのは難しい。
この世界の水準が知りたい。
商人は、水が入った袋を取り出す。
「基本的にこれですね。獣の皮や胃袋などを使った物です。軽く持ち運びがしやすい必需品」
……へぇ、これは見たことあるな。まだあちらに比べたら発展していない世界? いや、魔法があるから科学以外の発展かな
獣の皮や内臓は入れ物として、使われていたというのを聞いたことがある。
これなら、売れる希望がある。
「持ち運ぶなら軽量な方がいいかな。それ売れそう?」
「売れると思います。獣の皮では傷がつきやすく水漏れの問題が多いので硬い石製なのは良いですね。石の箱と一緒に買い取らせて頂いても?」
「残りも持ってくる」
今使っている分を除いて、制作済みの物を全て掻き集めて持ってくる。
水筒は1つ残して5つ。
石の箱は6つ。
「この量なら……妖刀はお返しします。先程の購入品は石製の道具との取引としましょう」
「こちらとしてもそれは嬉しい」
妖刀を使う気はないけれど、保有している限り別の誰かに渡ることはない。
商人との取引が終わった。
満足のいく買い物であった。