第38話 遺物無貌
物体操作を使っての道具作り。
作った物は、今使っているのと似た石の箱。
ピッタリ合わせている蓋は、閉めればほとんど空気が入らない。開く際も開けやすいように、指を引っ掛ける所を作ってある。
こう言う物は、加工で作るには専門的な腕が必要になる為、あるとしても一般普及はしていないと僕は見た。
その上、箱ならば用途が単純で使いやすいため、人が欲しがると考えた。
使っている物より、少し大きめに作ることで入れられる量が多くしている。
何個か同じ物を作る。
……別の道具も欲しいな。何作ろうか
次に、作る物を考えていると、小屋の扉からノック音が聞こえた。
……ゴーレムに反応はない。彼女かな
道具作りを辞める。
扉に向かい、少し開いて姿を確認する。
念のための確認。
居たのは2人組だった。片方は予想通りオオカミの女性だった。
もう1人は白いフードを被っていて、顔が分からない。
女性は僕の服をチラッと確認する。
「商人を連れてきた。入ってもいいか?」
「良いよ。どうぞー」
扉を完全に開いて、中に案内する。
オオカミの女性は、言われた通り小屋に入る。
フードを着けたおそらく商人の人物は、小屋に入らず興味深そうに小屋を見ていた。
……小屋が珍しいのかな
「まるで人が作るような小屋……これを高貴と言われる龍が作るとは……」
「中にどうぞ」
「あぁ、すみません。では失礼します。土足で大丈夫でしょうか?」
「大丈夫」
「助かります」
小屋の中に入ると、フードを外す。
若い男性だ。
年齢は20代か、行ってても30代前半くらいに見える黒髪の細身の男性。
商人より研究者と言われた方が、しっくりと来るそんな見た目をしていた。
そのせいか、フードの付いているローブが白衣に思えてくる。
男性はニコニコと笑顔を浮かべている、これが俗に言う営業スマイルなのだろうか。
……日本人?
男性の顔立ちが気になった。
日本人と見間違えるほどに顔立ちが似ている。
日本語に近い言語があるだけでなく、日本人に似た人種が居るのかもしれない。
「この小屋はご自身で?」
「そう、住む場所が欲しくて」
「なるほど、職人でも時間かかる物を作ってしまわれるとは素晴らしい……物体に対して影響を及ぼす魔法ですか。さて、貴方様は遺物を求めていらっしゃるとか」
「そうだよ。今もある?」
「えぇ、もちろん」
そう言って、商人は腕につけている腕輪を外して見せてくる。
模様が付いていないシンプルな銀色の腕輪、これが遺物らしい。
見た目は、ただのアクセサリー。
……これが遺物?
「こちらがお求めである形を自在に変化可能な遺物、無貌でございます」
「自在に変化可能?」
「はい、このように」
銀色の腕輪が、突然赤色のナイフに変わる。
次は盾の形、槍の形など変幻自在に姿を変えていく。
大きさも自由自在に変化している。
「ちなみにおいくらで」
「遺物の無貌は値が張りまして、30黄塊になりますね」
……黄塊? 単位か
聞いては見たけど、分からない。
30と聞くと安い気はするけれど、既に遺物は高いと聞いている。
つまり、黄塊という単位は、万や億のような単位な気がする。
「貴方様は通貨を持ち合わせていないと聞いておりますから、物々交換で問題ありません」
「青淵石の原石はどうかな?」
「原石……大きさはどの程度の物で」
「外に置いてあるので案内します」
小屋の外に案内して、岩を見せる。
一瞬だけ驚きの表情を見せた後、見て回ってじっくり観察している。
「青淵石の高純度原石、なるほど、この大きさですか」
「足りない?」
商人は、少し思案している。
足りたら良いなと思い、言葉を待つ。
「ふむ、そうですね。これだと……あと、もう一声欲しいところです」
「それならもう1つ良い物がある」
「ほう、良い物ですか」
小屋の中に戻る。
小屋の端の方に置いてある箱を、開けて中にしまっていたナイフを取り出す。
原石から取り出して制作した青淵石のナイフ。
刃先を自分に向けて、商人にナイフを渡す。
「抜き身だから気をつけて」
「おや、ナイフですか。ほほう、高純度の青淵石のナイフ、これも貴方様が?」
「そうだよ。自作ナイフ、ただ切れ味良すぎてほとんど使ってない」
「斬れ味が良いとはどの程度でしょうか」
「その床に軽々と突き刺さるくらい」
「人の体程度なら難なく切り裂ける切れ味はある。我が保証しよう」
オオカミの女性が、横から話に入ってきた。
一度ナイフの切れ味を見ている上、商人に信頼されているであろう女性の言葉は助かる。
「それほどとなれば……えぇ充分でしょう。青淵石の原石とナイフの2つで無貌をお渡しします」
ナイフを渡して、無貌を受け取る。
これで、目的の道具を手に入れた。
まだ道具作り始めたばかりだったため、持っていた2つで交換できて良かった。
これで、龍形態になっても服は何とかなる。
……あっ、他にもなにか使える物があったら買いたい
次に来る2ヶ月後には、僕は既に山を出ているはずだから、この商人と会う機会があるかが分からない。
なら、今のうちに使える物を買っておきたい。
山から出た後は、長期の移動が予想できる。
長期の移動に耐えられるサバイバル用の道具や、長期間持つ保存食が欲しい。
物々交換が可能なら、まだ売れる物が残っているから買える。
「他には何が売ってるの?」
商人に尋ねる。