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第37話 取引完了

「えっ!?」

「止まれ。取って食おうという訳では無い」


 驚いて下がろうとする僕の頭を、更に力を入れてがっしりと掴んだ。

 力が強く固定されたかのように、頭が動かない。


 ……力強い


 少女のような華奢な腕の見た目をしているのに、とんでもない怪力。

 だけど、掴まれている頭は変わらず痛くない。

 力は強いが、乱暴に掴まれている訳ではないようだ。


 ……あ、あれ? 今なにか……気のせいかな


 舐められた左目から気のせいかと思うほど、僅かに何かが抜ける感覚があった。

 でも左目に異変はない。変わらず割れた視界のまま。

 舐め終わった後、少し経ってから解放された。


「取引通り取り除いた。しばらくすれば治る」

「取り除けたの?」

「疑うか?」

「あぁいや、そうじゃなくてなんともないから」


 本当に疑っているわけではない。

 なんの変化もないから、実感が湧かない。

 原因を取り除いたら、目の傷が癒えるわけではなかったようだ。


「傷を蝕む力は感じるものではない。他者に悟られては効果は薄い」

「な、なるほど」

「しばらく浸かる。良いか」

「あっ、うん、いいよ」


 冷めないように、温度の調整を行う。

 30分程度浸かり満足したのか、湯船から出て小屋の中を歩いている。


「ちょっ、濡れてるから拭かないと……」


 濡れたまま歩かれると、床が濡れてしまい足を滑らす恐れがある。

 特に床は岩が材料の大半を占めている。特に石類などは濡れると物凄く滑りやすくなる。

 転倒は、頭を打つ可能性があり危ない。

 小屋内を見渡して、身体を拭ける物を探す。

 しかし、無い。それもそのはず、僕は拭く用の物なんて作っていないだから、僕の作った物を置いてるこの場にある訳がない。

 布類は、一切存在していない。


「不要、濡れてはいない」

「濡れてない? そんなわけが……」


 完全に首から下は、お湯の中に入っていた。

 30分もの間、お湯に浸かっていた。

 普通なら濡れて、全身びしょびしょになる。

 なのに、目の前の少女は、びしょびしょどころか水滴1つ付いていない。

 歩いた場所も濡れていない。


 浴槽に視線を移す。

 浴槽の付近も、出る際に飛び散った水滴と思しき量程度しか、付着していない。


 ……水に濡れない? 僕の持つ常識ってこっちだと全然当てにならないなぁ


「濡れてないなら良いか。タオルは作らないとなぁ……商人が良い物売ってたら良いけど」

「その程度の話よりも考えるべきことがある」

「考えるべきこと?」

「傷は数日で治る。治れば山から出る約束を神狼としていたな」

「出る準備、早めに整えないとか」


 数日で治るなら、それまでに万全の準備を済ませないといけない。

 治るのは、商人が来た後くらいだろうか、タイミングとしてはちょうどいい。


 ……あっ、道具作り!


 商人に売るための道具を作る予定だった。

 浴槽を作るのに、夢中で忘れていた。

 商人がいつ来るか分からない。


「何作ろうかな」

「作る?」

「商人から遺物を買うために金になりそうな道具作るつもりだったんだよね」

「金になる……その刀なら売れる」


 刀を指さしている。

 あれはただの刀ではない、特殊な力を持つ妖刀と呼ばれる刀だ。

 値段は分からないけれど、言う通り売れるだろう。


「あぁ、それは売るのが怖いんだよね」

「怖い?」

「そう、あの老人みたいな人に渡ると怖い」

「あの程度、問題になるまい」

「結構、強かったけどなぁ……それにその刀に宿る君の力が厄介なんだよ」

「私の力なのだから当然」

「それで強い相手が、その力を振り回す可能性があるから怖い」

「そうか、理解した」


 すんなり、理解してくれたようだ。


「……あの刀売ったら君は刀に付いていく?」

「なぜ?」

「いや、器って言ってたから一定以上は離れられないのかなと」

「違う、顕現の器なだけ」


 ……離れても大丈夫なんだ……


 器と言っていたから、てっきり離れることができないのだと思っていた。


「ここに居座る。浸かる物がある」

「それは構わないよ」


 妖刀と同じく不気味な雰囲気を纏っているけど人型、それも少女の見た目だと、嫌な気はしない。

 雰囲気というのは、案外見た目が重要なのかもしれない、武器と少女では違う。

 居座って特に害が有る訳でもないから、追い出す理由もない。


 商人に売る用の思いついた道具の制作始める。

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