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第36話 完成と声の主

 翌朝

 目が覚めて朝の支度を済ませてから仕上げに取り掛かる

 仕上げこそ重要、ここで失敗したらやり直しになってしまう

 だから眠気を取って朝食もしっかりと取り万全な状態で行う


「仕上げか」


 途中から静かであった刀が話しかけてきた

 昨日の作業は夜まで続いていたから寝ていたのだろうか


 ……刀って寝るのかな


 刀が寝るのか結構気になる


「そう、昨日のうちに仕込んでおいたこの水を入れて炎で沸かせば行けると思う。失敗したらやり直し」

「その水は湖から汲んできた物か。昨日何か細工をしていたな」


 昨日の夜に大きな入れ物に水を汲んでおいた

 かなり重量はあるけど今の僕なら軽々と持ち上げて運べた


「汲んできた後にろ過したんだよね。この入れ物にろ過の機能をつけて……ろ過に凄い時間かかったけど間に合ってよかった」

「濾過?」

「簡単にいえば水の中にある不純物の一部を取り除くこと」

「脆弱な人でもあるまい、必要か?」

「念のため、何があるか分からないから」


 本来なら湖の水を飲む時にこそ必要なことだったけれど失念していた

 思い出したのも昨日の夜、水を汲んだ時に

 身体に何もなくて良かった

 ろ過にはかなりの時間がかかるため、昨日の夜に仕込んでおいた

 学校で学んだ事なんてほとんど覚えていない素人の浅知恵、効果があるか分からない


「そうか」

「これを入れて……」


 水を入れて炎を使って沸かし始める

 手を突っ込んで熱さの確認をしつつ火力を強めたり消したりと調整を行う

 温度計などは作れない、多分材料が足りない

 時間はかかるけど自分の感覚で調整がわかりやすい


 ……うーん、ちょっと温いかな


「温度はどのくらいが良い?」

「熱くなく冷たくない程度」

「つまり温いくらいか。ならこのくらい……いやちょっと下げるくらいかな」


 炎を消してお湯を少し冷ます

 ちょうどいいくらいになり手を湯船から抜く

 あとはこの温度を維持する

 それが大変なのだけど


 ……蓋もちゃんとしまってて水漏れもない、これなら完成でいいかな


「OK、完成!」

「ならば入るとしよう」

「どうぞ〜……どうやって入るの?」


 今更ながらどうやって入るのか分からない

 作るのに夢中で気にしてなかった

 刀をお湯に入れたらいいのかそれとも別の方法があるのか

 そもそも刀ってお湯に入れて大丈夫なのか?


「人と変わらんやり方だ」

「人と変わらない? えっ!?」


 思わず僕は驚きの声を上げた

 視線を刀に向けた時、刀の前に黒と紫色の何かが立っていた

 それは地面につくほどの長髪を持つドレス風の服を身に付けた幼い少女の姿をしている

 しかし、人ではないと即座に理解できた

 なぜかは分からないけれど人ならざるものだと認識できた


 人ならざる不気味な雰囲気を醸し出しているそれの髪色は見覚えのある2色で構成されていた

 光を呑み込まんとするほどの漆黒をベースとしてところどころが鮮やかな紫で彩られている

 肌色は対照的に真っ白、生気を感じぬ、生物として不可思議なほどの純粋な白であった


 ……人じゃない、刀じゃなくてあの姿が本体?


 妖刀と同じ色の髪と妖刀から感じていた不気味なオーラを持つ少女

 着ているドレスも髪と全く同じ色をしていて元々目立つであろう肌の白がさらに目立っている

 髪とドレスの紫色の部分が変化しているように見えるけど気のせいだろう


「驚きか」


 僕の驚いた表情を見て首を傾げている

 驚いたことを不思議に思っているようだ


「てっきり刀が本体だと思ってたから」

「あれは私が顕現するために利用したただの器だ。僅かに私の力が付着しているけれど」

「……その僅かな力で戦ってたの?」

「あの人間の話ならば然り、私自身はわざわざ人のためになぞ戦わぬ」


 ……さらっと言ったけど顕現って……一体何者なんだろうか


 刀を器として顕現

 考える素振りもなく淡々と話していたことから嘘ではなさそうに感じる

 なら人や僕のような龍とは違う別格の何かなのだろう

 別格と感じたのは妖刀に付着した力は僅かと言っているところ、言葉通りに受け取るなら本体はあの魔眼殺しよりももっと強力な力を持っていることになる

 妖刀の力とあの見た目から天使には見えないから多分悪魔かそれに類する何かだと僕は予想する

 口には出さないけれど


 スタスタペタペタと歩きドレスのまま湯船に浸かる


「服のまま入るの?」

「これは特殊な物、それとは違う、気にしなくて良い」


 僕の着ている葉っぱで作った服を一瞥する

 そんな物と一緒にするなと言う意味だろうか

 本人が気にしないなら構わない、入り方は自由


「そ、そう……温度はどう?」

「良い」

「なら良かった」

「少し近寄れ」

「うん?」


 近寄れと言われて無警戒で近づく

 すると両手で頭を掴まれた

 突然掴まれてびっくりしたけど優しい掴み方で痛みはない


 ……あっ、治療してくれるのかな


 そう思い動かず待機していると左目を舐められた

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