表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/139

第35話 浸かる物

「浸かる物」

「浸かる物?」

「浸かる物」


 聞いたけど、分からない。

 むしろ、余計な混乱を招いただけな気がする。

 浸かる物……浸かる物って何??

 僕は、そんなもの知らない。


「その物の名前は?」

「知らない」

「そっかぁ、知らないなら仕方ない」


 名前を知らないのなら仕方がない、誰も悪くない。

 情報から答えを、導き出すしかない。

 ヒントは浸かる物。


 ……うーん、浸かる物、漬物かな。刀って食べ物食べるの? ……漬物は用意するの難しいなぁ


 漬物、食材を味噌などに漬けて作る物。

 作るのに、時間がかかる。

 そして、僕は作り方を知らない。

 ただ、おばあちゃんが作っていた。

 記憶を探る。

 かなり昔の記憶になるけど、確か漬物に関する何かを聞いていた気がする。

 無理やり絞り出す。


『漬物石はな。しっかりと決めるんじゃ。適当ではダメなんじゃ』


 違う、今欲しいのは、漬物石の情報じゃない。

 結構重要だけども違う。

 記憶を探るけど、漬物に関する他の言葉は思い出せなかった。

 仕方がない、少しは持ってる知識で何とか考えよう。


 ……漬物、ぬか漬けと味噌漬けは聞いたことがある。作るならそれかな。けど材料がない。ぬか漬けは材料分からないけど味噌は……人里降りないと手に入れるのは無理か


 味噌は自然物ではなく、人の手で作られた人工物。

 手に入れるのは、人里に降りないと難しい。

 そして、僕は人里に降りたら、間違いなく討伐対象として追われる。

 何もしていないけれど、老人を迎え撃ったから信じてもらうのは難しい。

 擬態が完璧なら何とかなるのだろうけど、僕の擬態は完璧じゃない。

 唸る。


「用意不可か?」

「用意するのが難しいなぁ」


 不可能ではない、けれど困難。

 しかし、治療を受けられると言うのなら、この対価で受けたい。


「その力があれば楽であろう」

「力?」

「私の器に掛けた物質を操る力、あの力は片目程度失ったとしても使えなくなることはない」

「物質を操る? あれか確かに使えるけど……もしかして食べ物ではない?」

「違う。それは浸かる物ではなかろう」


 食べ物では、なかったようだ。

 つまり、漬物ではない、別の何か。

 味噌のような物を人里で調達する必要がなくて、良かったと安堵する。

 しかし、漬物でないとなると振り出しに戻る。

 浸かる物……まったく分からない。


「どういうものか言える? 大きさとか形とか」


 質問攻めして、正解に近づく。

 名前は知らないとしても、どういう物かはわかって要求しているはず。

 これで、僕の知識と擦り合わせて答えを出す。

 数秒、静寂が訪れた後、返答があった。


「人1人以上が入れる器、形は様々」

「人1人以上が……物によって大きさに差がある?」

「然り」

「なるほど、人1人以上となると大きいなぁ。その器にはなにか入れる? 人以外」

「熱した水」


 ……なるほど、熱した水か。それで人1人以上が入れて熱した水、うん?


 1つ、思いついた。

 ただ、確実じゃない。

 少し質問を続けて、確証を得てから行動をしたい。


「熱した水の中に人は入る?」

「入る。私は最初に浸かる物と言った。食べ物に浸かりはしない」

「浸かる物、自分が浸かる物か。なるほど、分かった」


 ……確かに漬物は漬ける物か。浸かるだから自分がなのか。よし、答えはわかった。作るとして……小屋の中に作るなら小屋が狭すぎるな


 今の小屋の大きさは、僕が生活するためのスペース分しかない。

 作るのは人1人分としても、だいぶ幅を取ってしまう。

 だいぶ生活スペースが窮屈きゅうくつになる。


 ……よし、小屋を大きくしよう。ゴーレムの置物を崩そう。木も欲しいな


 ゴーレムの置物を減らして、ゴーレムに木を少し運ばせて小屋を必要分だけ拡張する。


 ……仕切りは……作るとしても後でいいか


 岩を物体操作で操り、形を作る。

 作る形はかつての自分の家にあった物、見慣れているから想像がしやすい。

 記憶を頼りに作っていく。


 ……排水機能も欲しいか。土の中に石でパイプを作って湖に繋げば……距離はないから今ある分でも足りそう


 形を作った後、周りに必要な物を作る。

 小屋の中や外を行き来して制作を進める。


「足りないか。ゴーレム、岩を見つけて運んできて」


 時々ゴーレムに指示を出して、足りなくなった材料を集めさせる。

 悩みながら進めていく。


「ここ違う。こうした方がいいか」

「形は出来ている、何を悩む」

「あれって本体だけじゃないんだよね。周りにも色々と……こっちの世界の物は見たことないけど、多分仕組みは同じだと思うから」


 作ったことなんてない、だから手探り。

 持つ知識を総動員して制作する。

 ただ今ある材料で作っているから、おそらく難易度は跳ね上がっている。


「そうか」


 ……換気は木の柵で良いか。外から見えないように簡易だけどこんな感じで


 作業に集中していたことで、どのくらい時間経ったか分からないけど、気づいた時には夜になっていた。

 夜でも、炎で照らして続ける。


「ここをこうして、よし、形は作れた。仕上げは明日やろうかな」


 もう夜遅いので今日は寝る。

 明日、仕上げを行う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ