第33話 抗議
「……ッ!? 誰だ!」
僕は、咄嗟に声を上げて構える。
何者かの声が聞こえた。
即座に周囲を素早く見渡すけど、小屋の中には誰も見当たらない。
この小屋は一部屋しかないから、扉の近くにいる僕でも全体を見れる。
……いない、どこにいる。小屋の外か?
姿は確認できていない。
身体強化の力に切り替えつつ、扉の方に振り返る。
扉は先程開けたまま、閉めていないから開いている。
小屋の中から見た限りは、特に誰の姿も見えない。
「ゴーレム怪しい存在を探し発見し次第攻撃」
三体のゴーレムに、探すように命じる。
警戒状態で、置いておいたゴーレムが動き出す。
ゴーレムが周辺を歩いて声の主を探す。
見つけた時用の攻撃の命令も纏めてしておく。
しかし、小屋の周辺には誰の姿もなかったようで、ゴーレムはすぐに持ち場に戻った。
……誰もいない? ならあの声はどこから
「ゴーレム引き続き周囲警戒、オオカミ以外を発見したら合図を」
新しく、命令を出す。
今一度小屋の中を見渡す。
先程見たからいないだろうけど、念のために見逃しがないかの確認。
「勘が鈍い、情報は渡した」
また声がした、声は背後からした。
バッと後ろを振り向くけど、何も居ない。
声の主は、かなり近くにいる。
……どこに
再び見渡しても、やはり誰もいない。
声の位置からして近いはず。
上を確認するけど、天井に張り付いてるわけでもないようで誰もいない。
「上にもいない。何処だ!」
声を上げる。
僕の質問に、返答はない。
小屋の中は静寂に包まれる。
……人型には限らないか?
人型ではないのかもと、考えて置かれている物を見る。物に擬態している。もしくは、物の形をした存在の可能性。
しかし、見覚えのない物は置かれていない。
僕が制作した道具と戦利品の妖刀以外には何もない。
見つからない。
……勘が鈍い? 情報は渡した? なにかのヒント?
少し考える。
これは、おそらくヒントだ。
答えが居場所、もしくは声の主そのものを表す物。
情報を渡した、既に何かを渡されている?
特に物は受け取っていない。
ハッとする。
最初の言葉を思い出した。
『不気味とは失礼な輩だ』という言葉。
この言葉は、僕に向けて言っているのだろう。
他に誰もいない上、僕が帰ってきた時に言ったのだからほぼ間違いない。
つまり、僕が不気味だと言ったという事。
記憶を探る。
「あぁ、そうか」
よく思い出してみたら僕は今日、一度だけ不気味と言っている。
そして、その相手は僕の声が聞こえる場所にあった。
……僕の持つ常識じゃありえないだけど、有り得てもおかしくないか
僕からしたら何が起きてもおかしくない、ここはそんな場所だ。
常識的にないと先に思考から消していた。
大きな油断、敵性存在じゃなくて良かった。
「ゴーレム警戒解除、待機」
ゴーレムに、命令を出す。
もう周辺警戒の必要はない。
小屋の周辺には、居ないことが分かった。
「……喋れるんだ」
「遅い、鈍い、余程不可思議か?」
「僕の常識だと物は喋らないからね」
「くだらない常識、無価値」
「確かにこっちだと役に立ちそうにないから後でまとめて閉まっておくかな」
「廃棄推奨」
「後で必要になるかもだから捨てるのは避けたいかな。……色々聞きたいことあるけどとりあえずなんで突然喋ったの?」
僕は結構小屋の中に居たから、話しかける機会は十分にあったと思う。
それなのに、今初めて喋り出したのかが気になる。
「単純な話、抗議、私は不服」
「あぁ……」
飛竜のウロコを探しに行く前に、ボソッと呟いた言葉が気に入らなかったようだ。
確かに、不気味と言われて良い気はしない。
意思があって尚且つ話せるなんて、思ってもいなかったから油断した。
「うーん、正当な抗議で何も言い返せない。本当にすみませんでした」
ちゃんと謝罪する。
気分を害したのは、間違いない謝るのが筋だろう。
「許す。私は寛大」
「確かに」
「会話聞いていた」
「会話? なんの会話?」
「抗議ついでに伝える。目の傷、治らない」