第32話 飛竜のウロコ
女性が帰ったあと、小屋の中で考える。
今僕が持っていて売れる物は、青淵石の原石と青淵石のナイフの2つ。
この2つで足りたらいい。けれど、もし足りなければ遺物を買えない。
だから、商人に売れそうな物を集める、新しく作る必要がある。
……簡単なものなら物体操作で作れる、今ある物で考えようかな
今ある材料で、作れる物を考える。
作れる物の中で需要がありそうな物。
「……あれも売ろうかな」
チラッ、と小屋の端を見る。
そこには、黒と紫が入り交じった不気味な色の妖刀が置かれていた。
不気味な雰囲気を醸し出していて、近寄りがたい。
僕は刀を使わない。僕自身に刀を扱う技術がないのと、刀を使うまでもなく、龍種としての強い力がある。
その結果、あれ以来置き物と化している。
最も、あの後は外にも出ておらず、戦闘もしていないから使っていないのは当然か。
妖刀は珍しいと聞いた上、強い。
商人に売れば、高く売れる可能性が高い。
……妖刀だから売れるとは思うけど
ただ、人間の商人に売ると、あの老人や他の僕の敵になるかもしれない強い誰かの手に渡るリスクがある。
それが怖い、妖刀の特に魔眼殺しが僕にとって厄介過ぎる代物。
もしも、老人以上の使い手に渡れば勝てるかは、分からない。
だけど、それと同時に不気味すぎて、手元に置いておきたくない気持ちもある。
「あの刀不気味なんだよなぁ」
妖刀を見てボソッ、とつぶやく。
ただ不気味なのだ。
怖いとか恐ろしいなどの感情は抱かない。
不気味以外の言葉では、形容しがたい何かの雰囲気を感じる。
「商人に聞いてから考えるか。……そうだ! 飛竜のウロコ! 探しに行こう。ゴーレム、葉っぱを集めてきて」
小屋の外で、待機しているゴーレムに命じて葉っぱを集めさせる。
物体操作を使って、葉っぱで服を作る。
ウロコ探し用に少しの間使うだけとはいえど、しっかりと作る。
ゴーレムが集めてきた様々な葉っぱを混ぜて、葉っぱの服を作る。
何枚もの葉っぱを組み合わせることで、簡単には破けないよう頑丈に仕上げた。
自分の身体に合わせて、シャツ風とショートパンツ風に制作した。
上下共にこの身体にピッタリなサイズにする。柔らかい肌に葉っぱが擦れる。
少し動きの確認をする。
……よし、十分動ける。破れそうにはなってないね
破ける様子もなく、サイズを合わせているからか、変な動きづらさもない。
肌が擦れる感覚は、あまり気にならない。
ここには鏡がないからどんな姿か、確認できないのが気になるところ。
変になっていたら嫌。
ともかく、これなら外に出られる。
小屋から出て、飛竜を投げ飛ばした方向を確認する。
……方角はこっちだったはず……あそこか
その方向へ歩いて向かう。
無惨に転がる木の残骸を見つけた。
飛竜を投げ飛ばした時の物だろう、木々がなぎ倒されていて酷い有様だ。
だが、木の残骸がわかりやすい目印になっている。
……やりすぎた
残骸を見て、やりすぎたと感じる。
結果論ではあるけれど、やり方を考えればもう少し森への被害は抑えられた。
ただやってしまったものは仕方ない。今の目的は反省ではない。
「さて、気を取り直してウロコ探しだ。この付近に落ちてるはず、見つかるかな」
飛竜のウロコを捜索する。
記憶の中の飛竜の姿を頼りに探していく。
戦闘時に攻撃した際に飛竜のウロコの一部が砕けていたと、記憶しているから、砕けたものが落ちていてもおかしくない。
「……これそうかも」
しばらく探していると、土が被ってる赤色の鉱石のようなものを見つけた。
ところどころヒビが入り、一部が砕けているけど、原型が何となく分かる。
拾い上げて、手で軽く土を払い落とす。
汚れていたけど、元々の明るい赤色が見える。
飛竜の色は赤色だったから、おそらくはこれが砕けたウロコ。
……あった。これだ。他にもあるかな
周囲を探すと、他にもいくつか発見できた。
赤い目立つ色だったおかげで、物が分かれば簡単に見つかる。
思っていたより砕いていたらしく、10個近くウロコを見つけた。
僕は、結構しっかり攻撃をしていたようだ。
商人に見せないとこれも売れるかは分からない。けれど、回収したウロコは全部小屋に運んでおく。
売れなければ、他の用途で使えばいい。
小屋に戻る。
後は今ある材料で道具作り、良い物ができれば、買い取ってくれるかもしれない。
何を作ろうかと考えつつ、小屋の中に入る。
「不気味とは失礼な輩だ」




