第29話 大問題発生
寝転がった際、ひんやりとした床に直に触れた。
まるで阻む物がないかのように、床の冷たさと混ざっている石のゴツゴツ感が全身の肌に伝わる。
……なんか凄い冷たい……まぁいいか。痛みが少し収まってきたし少し寝よう
少し違和感は感じたけど、特に気にすることもないと思いスルーをする。
それよりも、今のうちに寝ようと考える。
今日は歩き続けた上、戦闘も行った。僕の体力はかなり減っていると予想できる。
ちょうど今、目の痛みもマシになってきた。
また痛みが酷くなる前に、眠ろうと目をつぶる。
痛みが酷いと寝れなくなってしまう。寝れなくなると、徹夜になりかねない。
僕は徹夜になれていない、そんな人間が徹夜をすると、思考や動きが鈍る危険がある。
いまの状況からしても、それはかなり危ない。
この小屋は集落から離れているとはいえ、確実に人の手が届かない安全地帯というわけではない。
痛みが比較的少ない今が寝る良い機会。
腹も減っていないから、食事は後でいい。
ひんやりとした床のおかげで、普段よりも寝やすかったのか、疲れていたのか、僕の意識は目を閉じてからすぐに落ちた。
目を覚まして、上半身を起こしあくびをする。
窓から入る風が、上半身を起こした僕の肌を優しく撫でた。その風が気持ちいい。
少し眠いけど、いい目覚めだった。
「ふわぁぁ、よく眠れた」
目の痛みはまだあるけど、だいぶ引いていている。
しかし、視界はまだ回復していない。
小窓から、小屋の外を見る。
熟睡をしていたようで、すでに朝方になっている。
……もう朝になっているのか。腹減った……
箱から、果実を取り出して食べる。
食べながら、今日やることを考える。
特に、やることが思いつかない。
まず食料は足りている、外をさまようための数日分の食料と水を用意している。
材料探しをしようにも、今は特に作りたい道具も思いつかない。
後この山で下手な行動を取ると、追い出される可能性があるから、やるにしてもせめて許可を取ってからじゃないと難しい。
「そうじゃなくとも出歩くのは危ないか」
昨日の出来事を思い出す。
あの強い老人を倒した僕を危険視して、戦える者が捜索している可能性が高い。
下手に出歩いて、接敵したらまずい。
「小屋の中で大人しくかな……いや、もうちょっとだけ小屋を頑丈に」
右目で物体操作の能力を使う。
小屋の近くに放置していた岩を操って、小屋の壁の厚みを増やす。
小屋の周りに、3体のゴーレムを警戒状態で見張りとして置いておく。
土のゴーレムを、石のゴーレムに変える。
戦闘力は、土より石のゴーレムの方が強い。
……正直、心許ない
あの老人クラス相手なら、3体のゴーレムでは少しの時間稼ぎ程度にしかならないと考えられる。
それくらいあの老人は強かった。
ただゴーレムの数は増やせない。
……どうやったら増やせるかな。いや、動かせないだけで作ることはできる
ゴーレムが3体までなのは、正確には物体操作で制作した、単純な命令を個別にこなせるゴーレムの最大数が3体ということだ。
小屋や道具のように物体操作を利用して、動かない物を作ることはできる。
青淵石以外の集めておいた岩を、全部ゴーレムの形にして小屋の近くに置いておく。
ゴーレムの形は見て判別がつかないように、全く同じ形にする。
動かないから戦闘では使えないけれど、置いておくだけで威圧はできる。
その上で、3体の動かせるゴーレムをその中に紛れ込ませておく。
一仕事を終えて、小屋に戻り床に座る。
……あっ、椅子作ろうかな
「ひゃぁっ」
ビクッ、と身を震わせる。
おしりにひんやりと冷たい感覚が直接来た。
それに驚き、反射で声が出てしまった。
そして、反射で冷たい感覚に襲われたおしりに手を伸ばして触れる。
「冷たい……なんでこんな……に……」
僕の手は、何にも阻まれることなく、直に自らのおしりに触れられた。
手にはモニュと柔らかい物の感触がある。
阻むためにあったはずの物がそこになかった。
僕は、ようやくそこで気づいた。
そして思い出す、昨日の戦闘の時の出来事を。
忘れていた、尋常ではないほどの目の痛みと他の対応で、それどころではなかった。
重要だけど優先度が低かった。
パニックになりかける。
「……あっ、……ぁ……い、いや、落ち着け僕、問題ない。あの後、あのオオカミの女性以外とは接していない。老人は意識失っていたし他に誰もいなかった。つ、つまりセーフ!」
僕は慌てる自分自身を、何とか頭を回転させて落ち着かせる。
セーフかといわれたら、微妙なラインではあるけれど、とりあえず今はセーフという判決を出した。
見られたのは1名、それも同性、それにじっくりとは見られてない。
「……どうしよう」
最大の問題が浮上した。
こうなったとしても誰にも会わないなら気にしない、気にならないと思っていた。
だけど、今の状況的に誰にも会わないとは限らない。
特に遭遇するなら人である可能性が非常に高い。
それは、非常にまずい。
この姿を人前で晒したくない。
……オオカミの毛皮は無理だし、葉っぱで何とか……いや葉っぱだと耐久性とか色々と心配になる……
「とりあえず思いつくまで小屋に籠ろうかな」
小屋の扉を閉めて、小屋の中に籠る。